Listen

Description

物語の舞台は、飛騨高山。
時を超えた奇跡の出会いが、一人の女性の人生を大きく動かします。

2024年、マーケターとして働くエミリは、声優としての道を選ぶかどうか、人生の岐路に立たされていた。そんな彼女が訪れたのは、飛騨一宮水無神社。そこで彼女は雷鳴とともに、不思議な時間の渦に巻き込まれる。

降り立ったのは1982年。
そこで出会ったのは、若き日の母だった――。

母と娘が同じ年齢で出会う奇跡。
42年前の友情が、未来をつなぎ、新たな決意を生み出す。

これは、母と娘、そして時を超えた絆の物語。
あなたも、あの頃の自分と語り合いたくなるかもしれません(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

[シーン1:2024年/飛驒一宮水無神社]

■SE/鈴の音と柏手を打つ音

「御歳大神さま!お導きください!」

困ったときの神頼み・・・

ってわけじゃないんだけど、やっぱりここへ来てしまった。

飛驒一宮水無神社。

主祭神は御歳大神(みとしのおおかみ)さま。

五穀豊穣の守護神、私たちに命を与える神様だから。

平日だからか、境内には誰もいない。

私はエミリ。

いま、高山市内の企業でマーケターとして働いている。

だけど。

去年の夏、偶然見つけた声優オーディションでグランプリを獲っちゃったんだ。

しばらくはそれだけだったんだけど、

今年になって頼まれるようになったのが、声優の仕事。

それも、東京で。

いまの会社はとても居心地がよくて、

声優の仕事が急に入ってもスムーズに休むことができた。

とはいえ、いつまでも甘えているわけにはいかない。

声優の仕事も少しずつ増えてきたし、会社をやめて声優一本でいくか。

それとも、このままマーケターとしてキャリアップするか。

「御歳大神さま!どうしたらいいかお導きください!」

■SE/雷の音「ゴロゴロゴロ・・・」

あ、まずい。

降ってくるかな・・・

■SE/突然降ってくる大雨〜雷と夕立の音

きゃ〜っ。

すごい夕立。

大杉のしめ縄もあっという間に水浸しになっている。

雷大嫌いの私は、頭を下げて、絵馬殿に上がらせてもらう。

1m先も見えないくらいの大雨にビビってずうっと目を閉じていた・・・

[シーン2:1982年/飛驒一宮水無神社]

■SE/雨の音が急に止まり、鳥のさえずりが聞こえる

・・・あれ?

もう止んだ・・・?

恐る恐る目をあけると・・・

境内には、1人の女性が。

え?

夕立の中でずっとお詣りしてたの?

でも、よく見ると、服も髪も全然濡れてない。

目を見開いて凝視してたからか、目が・・・合ってしまった。

「こ、こんにちは・・・」

『こんにちは』

なんか、よくわからないけど、どこかで見たことある顔・・・

『お詣りですか?』

「はい、ちょっと神様に相談ごとを」

『あら。私もなんですよ。

そのためにわざわざ東京から帰ってきたの』

東京?帰ってきた?

でも高山の人なんだ。

ちょっと待って。

なんか、本当に見たことある顔・・・

っていうか、いつも見ているような・・・

はっ。

「あ、あのう、お名前伺ってもいいですか?」

『え?名前を?』

「あああああ、ごめんなさい。

そうですよね。いきなりそんな個人情報を・・・」

『個人情報って(笑)。大袈裟ねえ。

いいですよ、ここで会ったのも何かの縁だし』

彼女の口から出た名前は、私がよ〜く知っている名前。

毎日顔を合わせている人の名前。

苗字は旧姓だったけど。

マ、ママ〜!?

で、で、で、でも。

私と同じくらいの年齢じゃないの!?

若い!

若いママ!

『どうしたの?急に黙っちゃって』

「い、いえ、いえ、なんでもありません。

急にめまいが・・・」

『大丈夫?もう一度絵馬殿をお借りして休んだら?』

「いやいやいや、もう大丈夫だから。

あの・・・ちょっとだけお話しません?

参道とか歩きながら」

『うふふ、いいですよ』

「ここじゃなんですから、市街まで降りてスタバでも行きませんか?」

『スタバってなんですか?』

「え?スタバ・・・は、スターバックスコーヒー?」

『喫茶店のこと?』

「えええええ?ちょっとごめんなさい、落ち着くまで少し時間ください」

『はあ・・・』

え〜っと、若い頃のママってことは・・・え〜っと、え〜っと

「すみません!今年って何年ですか?」

『え?・・・昭和57年でしょ』

ショ、ショウワ〜!?

タ、タ、タイムスリップしちゃったの〜!?

頭の中で計算が追いつかない。

スマホ、スマホ・・・っと。

え?電波がない!

なんで?

ここ、フツーにアンテナ立ってたじゃん。

『それ、電卓?』

「あ、いえ、スマ、スマ・・・電卓です」

あ、計算機なら電波いらんわ。

えっと〜、1982年!?47年前〜!?

ってことはママ、25歳(はたち)〜!?

そりゃ、若いわ!

ってか、タメ〜!?

それに・・・

めっちゃくちゃキレイ!

ヘップバーンみたいじゃん。髪型も。

『ヘプバーン?お上手ねえ。

ま、たまに言われるけど』

おおっと、声に出ちゃってたか。

にしてもママ、ノリいいじゃ〜ん。

あと・・・

これが噂のボディコンイケイケ〜!?

(or ニュートラお嬢様系〜!?)

『なんか、あなた。面白い人ね』

「えっそう?

私もママ・・・じゃなくて、あなたみたいな人ともっと話したい」

『いいわよ〜。じゃ社務所の前の休憩所でお話しましょ』

「はい!」

[シーン3:1982年/飛驒一宮水無神社休憩所]

■SE/小鳥のさえずりと風の音

『へえ〜。声優になりたい?

洋画の吹き替えとか?』

「あ〜、外画っていうより、アニメかなあ」

『アニメって、あられちゃんとかヤッターマンみたいな?』

「おお、伝説の!」

『ヤッターマンはちょっと古いか。いまだと・・・超時空要塞マクロスとか』

「わ〜レジェンダリーアニメだ〜。

ジェネレーションギャップ、楽しい〜」

『声優なんて食べていけるの?』

「ま、まあね」

『で、親御さんはなんて言ってるの?』

「ママは応援してくれてる」

『へえ〜。理解があるのねえ』

「そりゃ私のママだもの」

『うちのママもそのくらい話がわかると嬉しいんだけど』

「どうかしたの?」

『う〜ん。まあ、君になら話してもいいか』

「気になる〜!教えて、お願い!誰にも言わないから」

『実はいま・・・付き合ってる人がいるんだ』

「えっ!だ、だれ?」

『って名前聞いてもわかんないでしょ』

「わかる!」

『ヘンな人ねえ。大学のときから付き合ってる人よ』

「よかった、パパだ」

『え?』

「ううん、なんでもない!で、どういうことなの?」

『最近、プロポーズされちゃったのよ』

「きゃー!素敵!」

『その彼じゃなくて』

「え?」

『タレントさんなんだけど』

「ええ〜っ!

そいつ、イケメンなの?」

『イケメンってなに?』

「イケメンはイケメンでしょ。

イケてるメン・・・つまり・・・ええっ〜と・・・ハン・・サム?」

『まあ、かなりハンサムかな。

タレントやってるくらいだし』

「そっかぁ。ふうっ」

『私、メイキャップアーティストなのね』

「知ってる」

『え?』

「あ、そうじゃなくて、うんうん、そんな感じ」

『それで、そのタレントさんを担当してるんだ。

その彼がね、映画の打上げのあとでいきなりプロポーズよ』

「やだ、最低」

『なんでそう思うの?』

「だって、彼氏がいるのに」

『まあ、確かにね』

しかも、その人、うちのママに勝手に挨拶に言って、

気に入られちゃってるの』

「ダメよ、そんな!」

『そう思う?』

「そりゃそうよ」

『じゃあ、どうしたらいいと思う?』

「そんなん、おばあちゃん・・じゃなくて、ママにハッキリ言うべきよ」

『なんて言うの?』

「私のホントに好きな人は・・・って」

『それで?』

「彼を実家につれってっちゃえば?」

『いきなり〜!?』

「だって、そのタレントもいきなり実家に行ったんでしょ」

『まあ、そうか』

「なんてやつだ」

『え?』

「いや、なにも。

と、とにかくさあ、行動あるのみよ」

『そうだなあ』

「だってさ、聞くけど、あなた、その彼のことどう思ってるの?」

『どうって・・・そりゃ、好きだけど』

「それだけ?」

『いや、そばにいると安心するとか』

「いないと?」

『ちょっと、寂しい・・かな』

「でしょ。そう思える人と一緒になるべきよ」

『一緒になるって・・・結婚するってこと?』

「当然よ」

『結婚か・・・』

「お願い!彼と結婚して」

『なんで、あなたがそんなこと言うの?』

「え、あ、だって、その・・・話聴いてるだけで、すごく素敵な人っぽいんだもん」

『なんか、具体的に話したか?』

「言ったわよ。背が高くて、見た目いかついけど優しいって」

『そんなこと、言ったか』

「言った。とにかく、ここで会ったのも何かの縁でしょ。

あなたに幸せになってほしいのよ」

『スッキリはしないけど、まあ、わかったわ』

「あ〜よかったぁ。一時はどうなることかと・・・」

『で、あなたはどうなの?』

「へ?」

『声優になりたいんでしょ』

「うん・・・」

『じゃあ、迷うことなんてないじゃない』

「え・・・」

『安定とかそんなの関係ない。

一度きりの人生でしょ。後悔しないいように生きなさい』

「あ・・・うん、わかった。

ありがとう!ママ」

『ママじゃないでしょ。やあねえ』

「ごめん」

■SE/雷の音「ゴロゴロゴロ・・・」