9月16日、Googleが「Agent Payments Protocol(AP2)」を発表しました。狙いは、AIエージェントがユーザーの代わりに“買い物を完了させる”時代に備え、認可・本人意思・責任の所在を誰もが検証できる形で残すこと。AP2はA2AやMCPの上に載る拡張として実装され、カード、口座振替、リアルタイム送金、ステーブルコインまで“支払い手段非依存”で扱える設計です。発表時点でAdyen、American Express、Ant International、Coinbase、Intuit、JCB、Mastercard、PayPal、Revolut、Salesforce、ServiceNow、Worldpayなど60超の企業が参画しました。
プロトコルの肝は「Mandate(暗号署名付きの指示書)」です。たとえば「この靴をこの値段で買う」と承認した瞬間にCart Mandateが発行され、ユーザー意思と最終カゴの中身・金額が改ざん不能な形でひも付く。発売開始と同時に自動購入を任せる“人不在”の委任では、あらかじめ上限や条件を定めたIntent Mandateを発行し、条件充足と同時に決済へ進みます。すべてのMandateは検証可能なVCで署名され、エージェントが勝手に買ったのか、ユーザーの意図どおりだったのかを追跡できる――ここがAP2の“監査可能性”の柱です。
ユースケースも具体的です。在庫や価格を監視して“緑のジャケットが20%上がってもOKなら買う”といった条件購入、旅行の“往復航空券とホテルを合計700ドル以内で同時予約”といった一括実行、ユーザーの予定に合わせた“時間限定バンドル提案”など、エージェント同士が安全にやり取りする土台をAP2が提供します。B2Bでは、Google Cloud Marketplaceで“ソフトの自動購買・ライセンス自動増減”といった企業ワークフローへの適用も想定されています。
暗号資産まわりでは、CoinbaseやEthereum Foundation、MetaMaskと連携し、A2Aの支払い拡張「x402」を公開。HTTPの“402 Payment Required”の精神を復活させる設計で、エージェント同士のオンチェーン決済やステーブルコイン支払いを実運用に載せるための仕様・リファレンス実装がGitHubで提供されています。
背景として、A2AはGoogleがLinux Foundationに寄贈した“エージェント間の共通語”で、MCPはAnthropic主導で普及が進む“エージェント→ツール接続”規格です。AP2はこの二つに“支払いの文法”を与える位置づけ。A2A/MCPの採用が広がるにつれ、認証・権限・監査の作法を揃える重要性が増しており、AP2はその空白を埋める試みと言えます。
エコシステム面では、カード大手(Mastercard、JCB、AmEx)から決済代行、EC、ID、暗号資産まで幅広いプレイヤーが賛同コメントを寄せています。“支払いは人間前提”だった既存の裏側に、エージェント前提の認証・検証・責任分界を差し込むには、ネットワーク/発行体/加盟店/ウォレット/本人認証の全階層が足並みをそろえる必要があるからです。
総じてAP2は、“エージェントに財布を渡す”ための最低限かつ強固な共通ルールです。短期的には、ユーザー同席でのリアルタイム購入と、留守番型の委任購入の二本立てが現実解。中期には、MCP・A2Aと組み合わせた業務自動化(定期購買、SaaSライセンスの自動スケール、B2Bプロキュアメント)に広がり、長期には暗号資産を含む多様な決済レールの“安全な切り替え”が当たり前になるはずです。業界標準づくりの成否は、Mandate/VCの実装しやすさと、プラットフォーム横断の運用監査のしやすさにかかっています。