グーグルが開発者向けに「Gemini CLI Extensions」を正式公開しました。端末で使うAIエージェント「Gemini CLI」に、外部ツールを“差して”使える拡張スロットを与える発想で、初期段階からDynatrace、Elastic、Figma、Harness、Postman、Shopify、Snyk、Stripeといった業界パートナーの拡張が並びます。各拡張にはAIに使い方を教える“プレイブック”が同梱され、導入直後から実務で使える応答を返すのが売りです。リリースは米国時間2025年10月8日付。ローンチからわずか3カ月で「Gemini CLIの開発者は100万人超」と同社は明かしており、エコシステムの滑り出しは力強いものになりました。
技術的な肝はMCP、すなわちModel Context Protocolです。MCPはAnthropicが2024年に公開したオープン標準で、AIエージェントと外部システムを双方向で安全につなぐ共通レイヤーを提供します。Gemini CLIはこのMCPサーバーと連携し、ローカルスクリプトやSaaSのAPIも含めて“道具箱”のように扱える設計です。拡張はその上に知識と手順を重ねることで、ただつながるだけではなく“賢く使える”ところまで持ち上げる──ここが今回の最大の進化点と言えます。
Google製の拡張群も充実しています。Cloud Runへのワンステップ公開、GKEやgcloudの操作、Cloud Observabilityでの可観測性、Chrome DevToolsやFirebase、Flutter、Google Maps、Looker、そしてGenkitまで、同社のクラウドと開発者スタックを端末から一気通貫で扱えるようになります。遊び心のあるNano Bananaの画像生成拡張まで用意され、拡張カタログは専用サイトでGitHubのスター順に探せるという導線です。
周辺の布石も見逃せません。夏には「Gemini CLI GitHub Actions」ベータを投入し、IssueのトリアージやPRレビューなどの協調作業にAIを組み込む道筋を示しました。さらに9月下旬にはAI Pro/UltraのサブスクでCLIとCode Assistの利用上限を引き上げ、日常の開発フローにAIを“常時稼働”させやすい料金・枠組みを整えています。拡張エコシステムの公開は、これらの施策を束ねて「端末=AI中枢」という未来像を一気に現実に近づけるステップと言えるでしょう。
競合環境で見れば、MicrosoftのCopilotやAnthropicのClaudeが押し進めてきた“エージェント×開発”の文脈に、GoogleはMCP準拠かつオープンソースのCLIという形で厚みを増しました。端末からCI/CD、監視、課金やセキュリティまで横断できれば、開発者は画面遷移やツール切替の負担を下げ、失敗時の復旧や改善も連続した文脈で回せます。会社としては、既存のSaaS契約を“拡張”に置き換えるだけでAI化の恩恵を受けられるため、導入コストと社内展開のハードルも下がる。今回の発表は、単なる機能追加ではなく、開発現場の“統合施政権”を端末に取り戻す動きの本丸と言ってよさそうです。