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2025年10月21日、中国・上海の臨港特別区域で“世界初の洋上風力で稼働する海底データセンター”が完成しました。総投資額は16億元、電源容量は24MW。設計上のPUEは1.15以下で、使用電力の95%超をグリーン電力で賄うとされ、冷却に要するエネルギー比率を従来の4〜5割から1割未満に抑える設計です。用地と淡水の消費を大幅に削減できる点も、都市近接型の新しい計算インフラとして注目されています。参画は上海海蘭雲科技(HiCloud)、申能集団、China Telecom上海、INESA、中国交通建設第三航務工程など。各社は将来の500MW級プロジェクトに向けた協定にも調印し、デモ段階から商用規模への拡張を視野に入れています。

この動きは、上海市が2025年3月に掲げた「インテリジェント・コンピューティング」強化策とも呼応します。目標は2027年までに関連産業規模2,000億元超、計算能力200 EFLOPS級への拡張。臨港のような拠点に計算クラスターを配備し、クラウドからエッジまでの一体運用を広げる方針です。

海底DCそのものは過去にも例があります。たとえばMicrosoftの「Project Natick」は、スコットランド・オークニー諸島沖の海底にサーバー筐体を沈め、100%再生可能エネルギー供給の系統から電力を受けて信頼性や省エネ効果を検証しました。今回の上海案件との違いは、“洋上風力と海底DCをセットで組み合わせ、都市近傍でグリーン電力を地産地消する”という点で、より商用運用を見据えた構成になっているところです。

また、業界メディアや中国国内の英字メディアも“世界初”の商用・実装事例として位置づけ、投資規模や洋上風力由来の高い再エネ比率を報じています。都市部の電力・用地制約に直面する中、洋上風力の安定的な利用時間(年3,000時間超)を背景に、電源・送電・負荷(DC)の統合制御で効率化を図る設計思想が評価されています。

国家レベルでも“東数西算”に代表される計算リソースの広域最適化が進むなか、臨港の事例は“沿海の再エネを沿海の計算負荷で消費する”もう一つの選択肢を提示しました。データ需要が都市圏に集中し続ける現実を踏まえると、冷却効率と設置面積で優位なUDCは、AI時代の低炭素インフラとして、陸上DCと相補的に棲み分ける可能性があります。もちろん塩害や保守アクセス、海洋環境への熱影響、音響振動リスクなど技術・環境面の検証は続きますが、政策・産業の“実装モード”に入った点は、今年のデータセンター業界を象徴するニュースと言えるでしょう。