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エヌビディアのお膝元、カリフォルニア州サンタクララで、完成したのに“空っぽ”のまま動けない巨大データセンターが話題です。デジタル・リアルティの「SJC37」とスタック・インフラの「SVY02A」、いずれも約48メガワット仕様の最新棟ですが、受電開始の目途が立たず、数年単位での“電力待ち”が現実味を帯びています。ブルームバーグは、SJC37は2019年申請から6年を経てもフル受電に至らず、SVY02Aも同様に未稼働だと伝えました。背景には、市営電力のシリコンバレー・パワー(SVP)の供給増強の遅れがあります。

SVP側は需要急増に対応するため4億5千万ドル規模の系統拡張を進めており、完了は2028年予定と説明。サンタクララ市内では稼働中・建設中のデータセンターが57施設にのぼり、接続順序の調整が続いています。電力確保に3年待ちは米国全体でも「一般的」との見方も示され、需要の集中する地域ではさらに長期化する模様です。

業界専門紙も、両施設の合計“ほぼ100MW”が空転したままになり得ると報道。SJC37は約43万平方フィートの4階建てで、SVY02Aは自前の変電設備と全8データホールを備える設計ながら、いずれも“グリッドが追いつくまで”待機を強いられています。

この“電力待ち”はシリコンバレー固有の話にとどまりません。カリフォルニア最大の電力会社PG&Eは、2025年にデータセンターからの接続引き合いが40%超増加したと明かし、北カリフォルニア内陸部などへの立地シフトが進む兆しを示しました。つまり、AIの集積地に近い“低レイテンシ”の価値と、電力供給の確実性の綱引きが全米で続いているわけです。

投資の潮流を見ると、STACKの親会社であるBlue Owlはデジタルインフラ投資を加速中で、巨大案件を“電力のある場所”へ展開する動きが顕著です。たとえばメタ(旧Facebook)とはルイジアナ州で2GW級の超大型DC「Hyperion」を共同で進める枠組みを発表しており、資本と電力をセットで動かす“新開発”が前に出る構図が鮮明になっています。

さらに象徴的なのは、電力がAIの“真のボトルネック”になりつつあるという事実です。マイクロソフトのナデラCEOは「電力不足で、手元のAI GPUの一部をまだ挿せない(稼働させられない)」と率直に語っており、コンピュートの拡張ペースを決めるのはもはやGPUの供給ではなく、系統・変電・敷設のスピードだと示唆しました。

エピソードの締めくくりとして、今回のサンタクララのケースは、AIインフラの“立地戦略”が電力地政学に直結することを私たちに教えてくれます。ユーザーに近い低遅延の価値を取りにいくのか、電力が潤沢で着工・受電が早い地域へ回遊するのか。日本企業にとっても、米国でのAI基盤調達や海外リージョン選定では、レイテンシ、電力接続リードタイム、資本コストをひとつの式に入れて最適化する発想が、これまで以上に重要になってきます。