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トランプ再登板と100日間の衝撃:関税、米中関係、そして揺れる世界秩序2025年、大統領として返り咲いたドナルド・トランプ氏。彼の“第2幕”が始まってからわずか100日間で、米国のみならず世界中に多大な衝撃が走りました。「史上最も生産的」と自画自賛する一方で、支持率は下降の一途。政治学者イアン・ブレマー氏がTEDで行った分析をもとに、今回はその激動の100日間を「経済」「貿易」「外交」などの視点から振り返ります。

トランプ氏の掲げる「公正な貿易」は、一見すると米国労働者を守る政策のように映ります。しかし、実際には“無差別”とも言える関税政策が実施され、アメリカ経済を直撃。ブレマー氏は「世界中のあらゆる国に喧嘩を売っている」と評し、関税が戦略ではなく衝動的に導入されていることを懸念します。

特に「Liberation Day(解放記念日)」と名付けられた4月2日の発表では、すべての国に一律関税を課す決定が下されました。これにより、市場は混乱し、消費者心理も冷え込みました。ブレマー氏は「最終的なコストを負担するのは国民である」と警告します。

さらに、Amazonが関税コストを商品ページに表示しようとした際、政権が「敵対行為だ」として圧力をかけたというエピソードは、政権のメディア・企業に対する圧力の象徴とも言えます。

米中関係は、改善の兆しすら見えません。ブレマー氏は「実質的な交渉は行われていない」と指摘し、中国側も強硬姿勢を崩していません。米国が関税を撤回しない限り、交渉のテーブルには着かないというのが中国の立場。中国の王毅外相は「米国は沈黙を力と勘違いしている」と批判。中国は「痛みに耐える力では米国を上回る」と自負し、長期的には米国の孤立が中国に有利に働くという戦略的な見方すら見せています。

ブレマー氏は、関税政策がもたらすのは「インフレの加速」「企業収益の圧迫」「消費者信頼感の低下」といった“負の連鎖”だと警鐘を鳴らします。特に90日間の猶予措置が与えられたものの、根本的な解決策にはならず、日本のような小国は早期妥結を模索する一方で、中国やEUとの大規模合意は遠いのが現状です。

これは「1930年代以降で最も関税が高い時代」に突入することを意味し、世界経済へのダメージはパンデミックをも上回る可能性があります。

皮肉なことに、トランプ氏の強硬政策はNATOやEU加盟国の間に「自主的な団結」の動きを生み出しています。欧州諸国は「アメリカ抜きでも自衛できる」体制づくりを急ぎ、ウクライナ支援などを独自に進めるようになっています。

しかしブレマー氏は、欧州の「構造的な弱さ(成長力不足・財政余力不足・防衛力の脆弱性)」が足を引っ張り、最終的には内部からの崩壊すら招きかねないと見ています。

国内政策では、不法移民対策が広く支持され、トランプ氏にとって数少ない「成功分野」となっています。しかし、その過程で「法の支配」を軽視する動きが強まっている点には要注意です。

ブレマー氏は「最高裁の判断を無視し、司法と敵対する姿勢」を特に問題視。法曹界や大学、メディアなどに対する政権の圧力が強まりつつある中、「誰が屈し、誰が立ち上がるのか」が今後の焦点になると語っています。

最も注視すべきは、経済的な痛みによる反発が政策変更のきっかけになるかどうかです。過去にFRB議長の解任に言及しながら、経済界の反発で即座に修正したことからも分かるように、トランプ氏の“軌道修正”は十分にあり得ます。

もう一つの焦点は、民主主義の機能が今も生きているかという点。司法、報道、学術界がどこまで踏ん張れるのか、あるいは“屈服”していくのか——。これは米国の未来を決定づける試金石となるでしょう。