ロブ・ブレドウ(ILM代表)が語った、アーティストとAIが共存する未来。
映画『スター・ウォーズ』が世界に与えた衝撃は、視覚効果(VFX)の進化そのものの物語でもあります。そして今、その最前線にいるインダストリアル・ライト&マジック(ILM)が、再び時代の転換点に立っています。TEDトークに登壇したILMの代表ロブ・ブレドウ氏は、50年にわたる革新の歩みと、急速に進化するAI技術への展望を語りました。本記事では、VFXの歴史と未来の交差点にあるILMの“アーティスト主導のイノベーション”について掘り下げていきます。
1977年、『スター・ウォーズ エピソード4』の冒頭に現れたスター・デストロイヤーは、当時の観客に衝撃を与えました。このシーンは、Dystralexと呼ばれるコンピュータ制御のカメラシステムによって撮影され、モデルとミニチュアを動的に撮影する技術は、映画撮影の常識を覆しました。
この「革新の精神」はILMの核であり、創業者ジョージ・ルーカスは、アーティストとエンジニアの垣根を取り払い、両者が並列に働く文化を築きました。
現在、生成AIが台頭し、映像制作のあり方が根底から変わり始めています。ブレドウ氏は、画像生成AIや動画生成ツールが急速に進化し、数週間かけていた3秒のショットすらも自動生成できるようになっている現状に対し、「アーティストとして複雑な思いがある」と率直に語ります。
「AIが仕事を奪う」といった懸念は根強くありますが、彼は“アーティスト主導のイノベーション”という理念こそが、今後の映像制作を導く鍵であると考えています。
ILMの歴史は、新技術と伝統的手法の融合によって形作られてきました。象徴的な例が1993年の『ジュラシック・パーク』です。当初は実物大モデルとストップモーションによる恐竜表現が予定されていましたが、初期のCGテストがプロデューサーの目にとまり、計画は大きく方向転換します。
この変化は、ストップモーションアニメーターのフィル・ティペットが「絶滅した気分」と語るほどのインパクトを与えましたが、実際にはアニメーターの伝統技術とCG技術が融合し、CGによる“恐竜入力デバイス”の開発へとつながります。
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』のオープニングでは、若き日のハリソン・フォードを再現するために、生成AIとCGモデルが併用されました。AIは自然な表情と演技を再現する一方で、CGは詳細なコントロールを可能にしました。この“ハイブリッド手法”によって、俳優本人が「自分のように感じる」と語るほどの品質が実現されました。
この事例は、AI単体ではなく、アーティストがそれをどう使いこなすかが重要であることを物語っています。
また、ILMが開発に携わったバーチャルプロダクション技術も、創造性とテクノロジーの融合の代表例です。『マンダロリアン』では、俳優を移動させる代わりに巨大LEDウォールを使ってリアルタイムで背景を再現することで、撮影の自由度と没入感を両立。そこには、CG宇宙船とストップモーションアニメの融合という、まさに“新旧融合”の世界が存在しています。
AIによって可能になることが増える一方で、それをどのように使うかは人間次第です。ILMでは、アーティストにAIツールを提供し、その想像力がどこへ行きつくのかを観察しています。例えば、アーティストのランディス・フィールズはジェネレーティブAIを使い、たった2週間でショートフィルムの試作を完成させました。
こうした事例は、AIを“動くムードボード”として捉えることで、作品の初期段階における強力な創造支援ツールとして活用できる可能性を示しています。
ILMの使命は、AIを使って映画を作ることではなく、「アーティストがAIを使って、より想像力に富んだ作品を生む」ことです。ブレドウ氏は、ただの効率化ではなく、次の“スター・デストロイヤー”を生むような創造の瞬間を求めています。
技術は変わっても、中心にあるのは人間の創造性。ILMはこれからもアーティストとエンジニアの協働によって、未来のシネマを形作っていくのです。