元の論文:Cholera
Citation:Lancet. 2022;399:1429–1440
論文の要約
このセミナー論文は、コレラの歴史、病原体、臨床像、診断、治療、予防について最新の知見を総合的に整理しています。
◯ 病原体と病態
コレラはトキシン産生性 Vibrio cholerae O1またはO139により引き起こされます。小腸に定着した菌がコレラ毒素を分泌し、cAMPを介したイオン分泌亢進により大量の水様性下痢を引き起こします。感染経路は汚染された水や食物で、流行は衛生環境の悪い地域で拡大します。
◯ 臨床像
感染は無症状から軽症の下痢、重症の脱水性下痢まで多様です。潜伏期は数時間〜5日程度で、最重症例では成人で1時間あたり1リットルもの下痢が出ることがあります。未治療の場合、重度の脱水と電解質異常により短時間で死亡に至ります。
◯ 診断と治療
診断は臨床像で行われますが、培養や迅速診断検査がアウトブレイク時の確認に用いられます。治療の基本は脱水補正で、経口補水液(ORS)や重症例には静脈輸液が必要です。抗菌薬は重症例や妊婦、併存疾患を持つ人に有効で、下痢の期間や排菌を短縮します。小児には亜鉛補充も推奨されます。
◯ 疫学と負担
年間推定290万例、9.5万人の死亡が生じており、アフリカや南アジアで特に負担が大きいとされています。報告例は実際の発生数より過少評価される傾向があります。
◯ ワクチンと予防
経口コレラワクチン(Shanchol, Euvichol, Dukoral, Vaxchora)があり、集団接種や流行地での使用で効果が示されています。しかし供給不足が課題です。長期的には水・衛生(WASH)の改善が最も持続的な対策であり、国際的な「コレラ撲滅ロードマップ2030」では、20か国以上でのコレラ伝播排除を目標にしています。
◯ 今後の課題
ゲノム疫学の進展により、コレラ菌の多様性や伝播パターンが解明されつつありますが、気候変動や人口移動の影響も複雑に関与しています。予防にはワクチンと同時に、社会インフラ整備、行動変容、監視体制の強化が不可欠です。
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