Immune checkpoint blockade in infectious diseases
Citation
Nat Rev Immunol. 2018 Feb;18(2):91–104. doi:10.1038/nri.2017.112
概要
本総説は、免疫チェックポイント分子(PD-1, CTLA-4, TIM-3, LAG-3 など)が感染症病態に果たす役割と、それらを標的とした治療戦略の可能性を解説している。
1. 概要
免疫チェックポイントは自己免疫を防ぎ組織損傷を最小化する一方で、感染やがんでは免疫応答を抑制し病原体や腫瘍の持続を助長する。がん領域では抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体が臨床応用され大きな成功を収めており、感染症治療への応用が期待されている 。
2. マラリア
マラリア患者ではPD-1やCTLA-4、TIM-3の発現が増加し、T細胞疲弊を引き起こす。
マウスモデルでは、PD-1欠損により寄生虫が速やかに排除され、PD-L2の存在が強い免疫誘導に重要であることが示された(図2, p.97)。
抗PD-L1+抗LAG-3併用やTIM-3阻害により、寄生虫排除が加速し免疫応答が改善した。
3. HIV感染症
未治療HIV感染ではPD-1, CTLA-4, TIM-3, LAG-3の発現が上昇し、T細胞疲弊を促す。ART後も発現は基準値より高い。
PD-1高発現CD4+T細胞にHIVが濃縮し、潜伏感染維持に寄与する。
サル免疫不全ウイルス(SIV)モデルでは抗PD-1抗体投与でウイルス特異的CD8+T細胞が拡大し生存期間が延長した。
抗PD-1や抗CTLA-4抗体が潜伏解除を促し、HIV RNA発現増加が観察され、治療介入の可能性が示された(図4, p.100)。
4. B型肝炎(HBV)
慢性HBV感染ではCD8+T細胞にPD-1, CTLA-4, TIM-3が強く発現し、T細胞機能不全を引き起こす。
抗PD-1/PD-L1抗体は動物モデルでT細胞機能を部分的に回復させ、治療ワクチンと併用するとウイルス排除が強化された。
初期臨床研究では抗PD-1抗体(ニボルマブ)が安全性を示し、HBs抗体獲得(seroconversion)を達成した例も報告された。
5. 結核(TB)
活動性TB患者のCD4+T細胞はPD-1を発現し、HIV合併でさらに減弱する。
PD-1欠損マウスでは炎症暴走と早期死亡が観察され、抑制経路の二面性が示唆された。
TIM-3阻害では慢性TBモデルでT細胞機能が改善し菌量が減少した。
6. 結論と課題
免疫チェックポイント阻害は慢性感染症の治療戦略として有望であるが、自己免疫的副作用(皮膚炎、腸炎、肺炎、心筋炎など)が高頻度に発生する可能性がある(Box 4, p.101)。また、T細胞機能回復の持続性や有効性には個体差が大きく、ワクチンや抗菌薬との併用が重要と考えられる。