Emergence of Oropouche fever in Latin America: a narrative review
Citation
The Lancet Infectious Diseases, 2024; 24: e439–e452
論文の要約
このレビューは、オロポウチウイルス(Oropouche virus: OROV)による急性発熱性疾患「オロポウチ熱」について、これまでの研究と現在の知見を整理し、再興感染症としての公衆衛生的脅威に焦点を当てている。
OROVは1955年に発見されて以降、中南米で急速に拡大しており、特にブラジル・ペルー・エクアドルなどで流行報告が増加している 。
ゲノムは3分節(S, M, L)からなり、再集合(reassortment)によりIquitos virus(IQTV)、Madre de Dios virus(MDDV)、**Perdões virus(PDEV)**という亜型が確認されている。
Mセグメントの多様性が高く、免疫逃避や抗体依存性感染増強(ADE)の可能性が指摘されている。
通常は自己限定性の発熱性疾患で、頭痛、筋肉痛、関節痛、嘔気などを伴う。二相性経過(再発熱)もあり、まれに髄膜炎や脳炎を伴う重症例も報告されている。
明確な治療薬はなく、リバビリンやインターフェロンも有効性は限定的。ワクチンは現在存在しないが、動物モデルを用いた開発研究が進行中である。
急性期のウイルス血症期にはRT-PCRが有用で、特にSセグメントを標的とした検出系が多い。一方、亜型の識別にはMセグメントが必要。
唾液・尿・髄液からの検出報告もあり、多様な検体が使用可能。
市販の抗原・抗体検査は整備されておらず、診断困難例が多く存在する。
主な媒介ベクターはCulicoides paraensis(ヌカカの一種)。都市部・農村部どちらにも生息し、都市流行を支えていると考えられる。
Culex quinquefasciatusなどの蚊種も感染源とされているが、ベクター適合性は不明な点が多い。
野生動物(ナマケモノ、霊長類、鳥類、齧歯類など)が自然宿主として疑われているが、確定的ではない。
研究数が極めて少ない(PubMedでは1961〜2023年で192報)ことが強調されており、診断法の整備、長期的な疫学調査、ゲノム監視体制の構築が急務である。
ワクチン開発に向けた適切な動物モデル、逆遺伝学系の整備、交差防御性の評価が必要とされている。
都市化・森林伐採・土地利用の変化といった人為的要因も流行に影響しており、ZikaやChikungunyaと同様に地球環境変化と連動する可能性が示唆される。
本論文は、OROVが**「次なる中南米発・世界的アウトブレイクウイルス候補」**である可能性を示す、包括的かつ警鐘的なレビューである。感染症領域における次の重点的監視対象としての位置づけが必要であろう。
■ 疫学と分子多様性■ 臨床像と治療■ 診断と検出精度■ 感染経路と媒介ベクター■ 公衆衛生上の課題と提言