SARS‑CoV‑2 biology and host interactions
Citation
Nature Reviews Microbiology volume 22, pages206–225 (2024)
論文の要約
本レビューは、SARS-CoV-2のライフサイクルおよびウイルスタンパク質の機能、そして宿主細胞との相互作用について最新知見を網羅的に整理している。
ウイルスの細胞内ライフサイクル:エントリーから複製、転写、粒子形成に至る各段階に関して、スパイクタンパク質、プロテアーゼ、ポリメラーゼなどウイルスタンパク質の分子機構が詳細に解析されている。また、膜貫通型プロテアーゼ(例:TMPRSS2)やカパーゼなどが促す融合現象やsyncytia形成についても解説されている。
宿主依存因子とスクリーニング:CRISPRやゲノムワイドスクリーニングを通じて、ウイルス複製に必須の宿主因子(例:PLAC8, SPNS1など)が同定され、これらを標的とした治療戦略の可能性が議論されている。
免疫回避と翻訳制御:ORF8などのウイルスタンパク質がヒストンのモチーフを模倣して宿主のエピゲノムを攪乱する一方で、nsp2などがサイトカイン(IFN-β)産生を抑制し免疫応答を回避する分子機構が明らかになっている。また、nsp13がSTAT1リン酸化を阻害することでインターフェロン応答を抑制する知見も紹介。
相互作用のダイナミクス:Nucleocapsidタンパク質の相分離やRNA–タンパク質相互作用、オートファジー関連機構の制御を通じて、ウイルス成熟過程や複製複合体の形成が解明されつつある。
応用展望:こうした分子・細胞レベルのメカニズムの解明は、ウイルスタンパク質に対する直接的な阻害薬や、宿主依存因子を標的とした免疫治療、RNA干渉療法の設計に資する基盤を提供しており、パンデミックに対応する次世代の治療模索につながる。
本レビューは、SARS-CoV-2の生物学と宿主相互作用を分子メカニズムの視点から体系的に整理しており、ウイルス学者、感染症研究者、創薬開発者などにとって重要な洞察を与える内容である。