元の文書:国内外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況について
Citation:IASR. 2024 Aug 1.
この報告は、日本および海外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の現状を、ウイルス学的知見、媒介ダニ、発生状況、国内対策、リスク評価を含めて整理したものです。
◯ SFTSの概要と病態
SFTSウイルスはBandavirus属に属し、6〜14日程度の潜伏期を経て発熱、倦怠感、頭痛等の症状が出現する。消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)やリンパ節腫脹を伴うことが多い。重症例ではショック、急性呼吸窮迫症候群、意識障害、腎・心筋障害や播種性血管内凝固(DIC)、血球貪食症候群などの合併症が起こることがある。検査所見として白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇が特徴的。国内での致命率は約27%。
◯ ウイルス学的特徴
SFTSウイルスはマイナス鎖一本鎖RNAウイルスで、L, M, Sの三分節構造をもつ。L分節はRdRpを、M分節はエンベロープ蛋白質 Gn/Gc を、S分節はヌクレオカプシド(N)および非構造蛋白質NSsをコード。国内外の株のゲノム配列は90%以上の一致があり、変異率は比較的低い。一部で遺伝子再集合体が認められている。
◯ 媒介マダニおよび感染動態
国内で媒介が確実にされているマダニ種はフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)およびキチマダニ(Haemaphysalis flava)。さらに、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、タカサゴキララマダニでもウイルス遺伝子が検出されており、媒介可能性が示唆されている。
ダニの活動期は春から秋にかけてが中心。ただし冬季にも若虫や成虫の活動があることから、冬期感染の可能性も否定できない。
◯ 発生状況
日本では2013年に海外渡航歴のないSFTS症例が初めて報告され、その後、感染症法により4類感染症として全数把握対象となっている。2024年4月末時点での累積報告数は963件。
国内致命率、前述のように約27%。
◯ 対策とリスク評価
2024年6月24日付で薬事審議会によりファビピラビルが SFTS に対する効能追加が承認され、治療薬としての選択肢が増加。
感染症予防および感染症医療に関する法律に基づく監視体制、感染症発生動向調査が整備されている。
リスク要因としては年齢(高齢者)、ダニに刺される環境、媒介マダニの生息地、および野外活動が挙げられている。
◯ 今後の推奨
ダニ咬傷対策の強化、特に媒介マダニの生態把握と活動期の監視。
ワクチンや予防的な治療選択肢の研究促進。
医療機関・公共衛生機関へ情報提供の徹底および診断・治療体制の整備。
要約(日本語)