1.論文のタイトルCirculating biomarkers of vasoplegia: a systematic review
2.CitationAnnals of Intensive Care (2025) 15:150
3.論文内容血管麻痺(バソプレジア)は、心拍出量が維持されているにもかかわらず、全身血管抵抗の低下によって持続的な低血圧が生じる病態であり、敗血症や心臓手術後、重度の炎症反応などで一般的に見られる。この病態は死亡率の増加や入院期間の延長と関連しているが、統一された定義や診断・治療の指標となる標準的なバイオマーカーは確立されていない。
本研究は、集中治療および周術期の成人患者における血管麻痺の発生、重症度、予測、経過に関連する血中バイオマーカーを特定し、併せて文献内での血管麻痺の定義を整理することを目的とした系統的レビューである。
解析対象となった43件の研究では、計39種類のバイオマーカーが調査されていた。その中で最も頻繁に研究されていたのはレニンとアドレノメデュリンであった。レニンの濃度上昇は血管作動薬の必要量増加や血行動態の不安定性と相関しており、アドレノメデュリンは血管麻痺の発症や持続期間を予測する指標として有望であることが示された。また、コペプチンも心臓手術後の血管麻痺の予測に寄与する可能性が報告されている。
しかし、血管麻痺の定義、測定手法、評価項目が研究ごとに著しく異なっていた。例えば、心拍出量や血管抵抗の数値を必須とする厳格な定義もあれば、輸液に反応しない低血圧といった簡略な定義もあり、この不均一性がメタ解析の実施を困難にする主な要因となった。結論として、血管麻痺の診断と管理を向上させるためには、国際的な合意に基づく定義の確立と、標準化されたプロトコルによるさらなる研究が必要である。
4.批判的吟味内的妥当性本レビューはPRISMAガイドラインに従い、PROSPEROへの登録も行われており、透明性の高い手法が採られている。また、複数の著者による独立した査読とQUADAS-2を用いたバイアスリスク評価が実施されている。しかし、対象となった研究の多くで「患者の選択」に関するバイアスリスクが高い、あるいは不明と判定されており、データの信頼性に懸念が残る。さらに、バイオマーカーと血管麻痺の関連を主要評価項目としていた研究は半数以下(43件中20件)であり、多くが副次的な解析結果に依存している点も限界である。
外的妥当性対象となった研究の多くが敗血症(58.1%)または心臓手術後(32.6%)の患者に集中しており、火傷、膵炎、アナフィラキシーなど、他の原因による血管麻痺への一般化には限界がある。また、血管麻痺の定義自体に共通の基準がないため、ある研究で示されたバイオマーカーの有用性が、異なる定義を用いる他の臨床現場においても同様に再現されるかは不透明である。測定タイミングや手法の不一致も、日常診療への直接的な応用を妨げる要因となっている。