1.論文のタイトルThe medical management of acute respiratory distress syndrome
2.CitationIntensive Care Medicine, 2025 (Published online: 22 December 2025)
3.論文内容のまとめ急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、依然として高い死亡率を伴う異質性の高い症候群である。最新の「グローバルARDS定義」では、介入内容に依存せず、より早期かつ幅広い患者群を特定することが可能となった。管理戦略は、従来の画一的な手法から、生理学的、生物学的、放射線学的な表現型(フェノタイプ)に基づき、特定の治療標的を持つサブグループを特定する精密医療へと移行している。
呼吸管理において、非侵襲的サポートでは、軽症例には高流量鼻カニューレ(HFNO)が標準として推奨され、軽症から中等症にはヘルメットを用いた非侵襲的換気(NIV)が検討される。侵襲的人工換気では、予測体重に基づいた低一回換気量(6 ml/kg)とプラトー圧の制限(30 cmH2O未満)が標準治療である。さらに、肺の虚脱と過進展のバランスをとるための駆動圧(ドライビングプレッシャー)の制限や、リクルートメント比(R/I比)、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)を用いた個別化された呼気終末陽圧(PEEP)の設定が提唱されている。
非換気療法では、中等症から重症のARDS患者に対する早期の伏臥位療法(1日12時間以上)が死亡率を半減させることが示されており、標準的なケアとなっている。筋弛緩薬(NMBA)のルーチン使用は推奨されないが、重度の低酸素血症や人工呼吸器との非同調がある場合には検討される。ステロイド療法については、早期のデキサメタゾン投与が有効である可能性が示唆されているが、依然として結論は出ておらず、疾患特異的な適応や進行中の臨床試験の結果が待たれる状況である。輸液管理については、ショック離脱後の保存的な輸液戦略が肺浮腫の軽減と人工呼吸器離脱の促進に寄与する。
4.批判的吟味【内的妥当性】本論文はナラティブレビューであり、ARDS管理における主要なランダム化比較試験(RCT)のエビデンスを網羅的に検討している点は評価できる。低一回換気量や伏臥位療法については強固なエビデンスに基づいている。一方で、生物学的サブフェノタイプに基づく介入や特定のPEEP滴定法(EITや食道圧モニタリングなど)については、事後解析や小規模な研究に基づく提案が多く、現時点では前向きな大規模RCTによる決定的な検証が不足している部分がある。また、メタ解析やガイドラインの更新を反映しているものの、ナラティブ形式であるため、著者による情報の選択バイアスが完全に排除されているわけではない。
【外的妥当性】グローバルな定義の採用や、HFNOから体外式膜型人工肺(ECMO)に至るまでの幅広い管理フレームワークを提供しているため、一般的な集中治療現場での汎用性は高い。しかし、推奨されている精密なモニタリング手法(EIT、食道圧測定、R/I比の算出など)や生物学的マーカーによる表現型の特定は、高度な設備や専門知識を必要とする。そのため、リソースが限られた施設や、これらの技術に習熟していない臨床現場においては、提示された「ベストプラクティス」をそのまま適用することが困難な場合がある。