Proton-pump inhibitor use as a modifiable etiological factor for iron deficiency in heart failure
Journal of Cardiac Failure (2026), doi: 10.1016/j.cardfail.2026.04.011
心不全(HF)患者において鉄欠乏(ID)は、貧血の有無に関わらず予後悪化に関連する一般的な合併症である。プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用は、一般人口や慢性腎臓病患者においてIDのリスク因子であることが知られているが、心不全患者における関連や用量反応関係については十分に解明されていなかった。本研究は、BIOSTAT-CHFコンソーシアムの2つのコホート(計4,056名)を用いた事後解析である。
IDはトランスフェリン飽和度(TSAT)20%未満と定義され、PPIの用量は各薬剤の効力を考慮し、オメプラゾール換算値に変換して評価された。解析の結果、対象者の38%がPPIを使用しており、PPI使用者は非使用者に比べてID(64%対56%)および貧血(43%対30%)の有病率が有意に高かった。多変量ロジスティック回帰分析において、年齢、性別、抗血小板薬、心不全の重症度、および既知のID予測因子を調整した後も、PPI使用はIDと独立して関連していた(オッズ比 1.29)。また、オメプラゾール換算で10mg増量するごとにIDリスクが9%上昇するという、有意な用量依存的関係が認められた。一方で、用量を調整した後は、PPIの特定のサブタイプ(オメプラゾール、パントプラゾール等)による独立した関連の差は認められなかった。
結論として、心不全患者においてPPI使用は用量依存的にIDと関連しており、これは特定の薬剤の特性ではなく酸抑制作用の強度に起因することが示唆された。臨床医はPPIを使用している心不全患者の鉄ステータスをより頻繁に監視し、継続治療の妥当性を評価すべきである。
内的妥当性本研究の強みは、4,000名を超える大規模な検証済みコホートを使用している点にある。解析では、抗血小板薬の使用や食事によるタンパク質摂取推定値、腎機能など、IDに関連しうる多くの交絡因子を多段階のモデルで厳密に調整している。さらに、PPIの効力を標準化(オメプラゾール換算)して用量反応関係を確認したことは、生物学的妥当性を高めている。一方で、観察研究のデザインであるため、因果関係を確定させることはできない。また、検証コホートにおいて炎症指標であるCRPデータが利用できなかったため、炎症による機能的鉄欠乏の影響(残留交絡)を完全には排除できていない。加えて、PPIの服用期間や具体的な消化器疾患の有無に関するデータが欠如している点も、メカニズムの解明における限界である。
外的妥当性多国籍な心不全コンソーシアムのデータに基づいているため、広範な心不全患者集団への一般化可能性は高いと考えられる。ただし、対象は心機能障害の客観的証拠がある新規発症または悪化期の心不全患者に限定されている。そのため、より軽症な外来管理中の安定した患者や、異なる臨床背景を持つ集団にこの知見をそのまま適用できるかについては慎重な検討が必要である。また、IDの定義をTSATのみに依存している点は、各国のガイドラインや臨床現場での運用(フェリチン値の併用など)との違いを考慮する必要がある。