「風の電話」という電話ボックスがあります。
電話線はつながっていません。
でも、その電話は世界中の人とつながっています。
亡くなってしまった人。
今はもう会えない人。
あるいは、生きているけれど、どうしても言えないことがある人。
そんな人に話しかけるために、多くの人がこの電話を訪れます。
今では海外からも人が訪れるそうです。
この電話を取材された
NHK番組ディレクターの 伊藤麻衣さん の言葉が、とても印象的でした。
「あのボックスだと2人きりになれる。
電話だと一対一で話すから、他の人にも聞かれないし、生前とまったく行為が一緒だから、今もいる気がするっていうふうに言ってたのがすごく印象的で」
(参考:NHK「週末のNスペは…それからの、風の電話」2026年3月7日放送)
この言葉の中に、私はイノベーションの本質を見た気がしました。
私はそこから3つの気づきを思いました。
1、見えないから「いる」と思える
2、繋がってないから繋がっている
3、思いは時空を超える
1、見えないから「いる」と思える
普段、私たちは見えるものだけを現実だと思いがちですが
哲学者 マルティン・ハイデガー は
人間の存在についてこう言っています。
「人間は世界の中で、すでに関係の中に投げ込まれている存在である。」
(『存在と時間』)
つまり、人間は
物理的な存在だけで生きているのではなく、関係性の中で存在しているということかなと思います
だからこそ、
姿が見えなくても
関係が残っていれば
その人はまだ「いる」。
風の電話は、
この 関係の存在 を思い出させてくれる装置なのだと思いました。
イノベーションも同じで、
新しい価値は、
見えるものからではなく
見えない関係性
そこを如何に捉えていくか?
から生まれることもあるなあと思いました
2、繋がってないから繋がっている
電話線はつながっていません。
でもその電話は世界中、さらには、全宇宙、もっと言えば、現世を超えた場所ともつながっています。
ここに、デザインの本質を感じました。
デザイナー 佐藤卓さん は、こんなことを言っていました。
「ありとあらゆるものは、人に届くとき必ずデザインを経る。」
(NHK「最後の講義」)
つまり、デザインとは
形を作ることだけではなく
いろんなものや、ことの、意味をつなぐこと、だと言ってもいいのかなあと思いました。
風の電話は、通信機能はありませんが
でも
• 電話ボックス
• 受話器
• 一対一の空間
この 行為のデザイン によって、つながっていないものをつなげる意味を持たせることができる。
技術はゼロでも意味は最大。
ここに、イノベーションの面白さがあるなあと、改めて思いました。
3、思いは時空を超える
芸術家や哲学者は、昔から「思いは時間を越える」
と言い続けてきましたように思います。
詩人 リルケ はこう書いています。
「愛する者は、死者であっても私たちの中で生き続ける。」
(『若き詩人への手紙』)
人間の記憶や感情は、時間に閉じ込められません。
だからこそ、亡くなった人にも電話をかけることもできる。
そしてそれは、ただの感傷ではなく
人間の精神の構造そのもの
なのかもしれないと思いました。
我々は、いろんなものや人の、かけらでできている。
だからもしかしたら、そのかけら達と、改めて会話をしているのかもしれないなと。
これまで、接続できなかった、かけらたちと、新しいつながる意味を与えることで、改めて会話をすることができるようになるのかもしれないなと。
このイノベーションは
人の心の奥にあるかけらの関係を、
そっとつなぎ直すこと
なのかもしれません。
風の電話は、
そんなことを教えてくれる
とても静かで
とても深い
イノベーション
なのだと思いました。
一言で言えば
つながっていないからつながるノベーション
そんな話をしています
参考:NHK 週末のNスペは...それからの、風の電話
3月7日(土)