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今回は労働災害補償保険についてお話をしていきます。

労災保険とは、雇用保険と対になっている労働保険で、仕事が原因でケガをしたり病気になった時に労働者を助けてくれる補償のことを指します。

日常でケガをした場合は、健康保険から療養の給付を受けますが、仕事が原因となった場合は労災保険が給付をします。

労災保険は法人個人問わず、従業員を一人でも雇用した場合に適用となるのですが、農林水産の事業は一定の条件を満たさない限り、加入は任意とされています。

労災保険には通勤災害と、業務災害が生じた場合に給付があるのですが、その給付を大きく分けると、4つに分けられるのですが、どのようなときに給付があると思いますか?

答えは、病気やけがの治療費、病気で会社を休んだ時の補償、体に障害が残った場合の補償、そして事故で無くなってしまった場合の補償です。

今回は社会保険労務士の資格試験でも実際の事件、事故が取り上げられて出題されるので、

業務災害の判例集から、ちょっとビックリな例を5つ紹介していきます。

1つめ。「ドライバー喫茶店事件」

運送会社にトラック運転手として勤務しているAさんは、毎日印刷工場から商品を引き取りに行き、納品をしています。

ある日、取引先の業務遅延で、1時間ほど待機時間ができてしまいました。

商品を受け取らない限り、お店に納品することはできません。困ったAさんは「そうだ、のども乾いたし、ちょっと喫茶店でお気に入りの漫画でも読もうかな」とトラックを降りて、近くの喫茶店に向かいました。すると、途中で、すってんころりん。顔を強打し、とても大きなあざができてしまいました。

業務災害は、業務を中断している場合であっても、水分補給、トイレ休憩などは業務関連性が認められます。そして、この事故は工場の近くで待機をしていなければ、お店に納品をすることができないので、Aさんがサボって喫茶店に向かおうとしたわけではないと認められたことから、業務関連性があると判断され、業務災害となりました。

事件2「恋するスーパーマーケット」

食品会社の営業担当Bさんは、県内数か所のスーパーを担当しています。毎日、数時間かけて担当のお店を回り、売れ筋商品の調査をしています。ある春の日、取引先のスーパーで仕事をしていると、Bさんが気になっている弁当屋の娘さんがいました。弁当屋はお花見の時期で大忙しです。お弁当は普段の倍以上。娘さんがとても大変そうだったので、「ここで、かっこいいところを見せてやろう」とお弁当の陳列を助けようとした際に、台車で足をひっかけて、転んでねんざをしてしまいました。

弁当屋の仕事はもちろんBさんの仕事ではありません。しかし、本来の仕事ではない場合でも、その作業をしなければ自分の業務に支障が出たり、影響がある場合は、業務災害が認定されるケースがあります。しかし、Bさんは弁当屋を手伝わなくても、本来の仕事である売れ筋調査には何の影響もありません。影響するのはBさんの恋心だけとなります。

もし、これが取引先のスーパーの担当者に頼まれて承諾した業務であった場合は、業務災害として認められます。

事件3「遥かなるホームベース」

工業系の大手メーカーであるY会社は、企業のイメージアップのためにスポーツに力を入れています。中でも野球部は全国大会にも何度も出場するようなとても強いチームでした。社員のCさんは甲子園出場の経験もある若手のエース。野球の実力を期待されて入社し、4番選手として活躍をしていました。しかし、試合の途中で相手選手とぶつかり、足を骨折してしまいました。この場合は業務災害でしょうか?

対外的な運動競技をしている際のケガは、出場が出勤扱いとなるか、試合に関する旅費が会社負担となっているかが業務災害の判断ポイントとなります。

Cさんは出場を義務付けられており、雇い入れ時から大会出場が予定された選手であったため、業務災害として認定されました。

事件4「従業員水難事件」

IT企業でエンジニアとして働いているDさんは商品納入先の企業に社用車で向かっていました。Dさんの勤務態度はまじめで、社内でも評判でした。

ある日、午後6時に顧客先を出たDさんは会社に「30分後に会社に戻ります」と電話をしましたが、いつまでたっても帰ってきません。警察に通報し、捜索をしたところ、会社の近くを流れる河川で溺れてなくなっているDさんが発見されました。

Dさんの乗っていた車は、川から300mも離れており、争った形跡はなく、他殺、自殺、事故の判断は難しい状況です。

この場合は勤務中ですが、業務災害となるでしょうか。

労働者の単独業務中の事故は、把握できている事実関係に基づいて業務起因性を判断するようです。勤務中に車の外へ出ることはあっても、数百mも離れた川に入水するのは不自然で、ITエンジニアの業務に関連する要因も見当たらないため、業務災害とは認められません。

事件5「内緒の雇用関係」

Eさんは小売店を営んでいるFさんと生計を共にして交際をしています。FさんはEさんに対して毎月15万円の生活費を渡しており、Eさんは家事の合間にFさんの仕事を手伝っていました。あるとき、Eさんはお店の備品の買い出しを頼まれ、お出かけをしていたところ、交通事故にあい、右足の打撲をしてしまいました。

この場合は業務災害として認められるでしょうか。

労災保険において、労働者とは使用者の指揮命令のもとに労務提供をして、その対価に賃金を受ける者として定義されています。

EさんはFさんのお店と雇用契約は締結しておらず、受け取っている金銭も生活費であるため、雇用関係があるとは認められません。

家事の合間のお手伝いでは、賃金支払いの要件を満たさないため、業務災害とはなりません。

さて、いかがでしたか?

僕が過去問や本試験で問われた事例だと、ランチタイムにレストランに入ろうとしたら、野犬にかまれたり、焚火にガソリンをまいて火傷をしたり、ふざけてクレーンに乗って遊んでいたら落ちてけがをしたなど、実際に裁判が行われたものが出題をされましたが、

なかなか皆さんやらかしてくれています。

インパクトが一番強いのは、炭鉱で採掘の仕事に従事している労働者が、作業中泥に混じっているのを見つけて拾った不発雷管を、休憩時間中に針金でつついて遊んでいるうちに爆発し、手の指を負傷した場合、業務上の負傷と認められるかという問題です。

だめですからね。雷管をつんつんして遊んだら。下手したら死んじゃいますからね。

もちろん、業務災害とは認められません。

社労士受験を考えている方は、勉強の息抜きに、今回の参考書籍を一読されると、対応力や業務災害の考え方が身に付きますから、おすすめです。

今回は労働調査会出版 「新よくわかる労災保険、安全衛生」

および、自由国民社出版 「労働災害、通勤災害のことならこの1冊」を参考にしています。