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今回は第35回ですね。この収録をしているのが7月5日の水曜日です。

聡一郎が受験する社会保険労務士の試験日が8月末なので、試験まで2ヵ月を切った追い込み時期ですね。

 

今回は、社会保険労務士試験でおなじみの労働判例についてお話をしていきます。

 

試験では労働基準法の選択式問題で判例が問われることが多く、法令用語も多く選択肢にあがるので、初めて見る単語も多く、なじみがない仕事だと何が書いてあるのかさっぱりわからないといったことがあります。

 

今回は沢山の判例から

・労働時間

・労働災害

・懲戒

・人事管理

・就業規則

という5つの分野に絞って、具体的な事案と実際の判決についてお話をしていきます。

 

1.           
阪急トラベルサポート事件

【判例】

派遣会社に雇用された従業員が、派遣先となる旅行会社で添乗員として、ツアーの添乗業務に従事していました。派遣会社では、添乗業務については、事業主が労働時間の算定が困難な場合に、所定労働時間を労働したことにする「事業場外のみなし労働時間制」を適用して、所定労働時間勤務をしたものとして取り扱っていました。

これに対して、従業員が、ツアーの添乗業務は「労働時間を算定し難いとき」には当たらないので、事業場外のみなし労働時間制は適用されないと主張して、時間外勤務手当等の支払を求めて派遣会社を提訴しました。

【事実の概要】

・添乗業務は、旅行日程により、あらかじめ業務内容が具体的に確定していて、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及び決定できる選択の幅は限られている。

・ツアーの実施中も、旅行会社は添乗員に対して、携帯電話を所持して常時電源を入れておき、旅行日程の変更が必要となる場合は旅行会社に報告して指示を受けるよう求めている。

・ツアーの終了後に、旅行会社は添乗員に対して、添乗日報により、業務の遂行状況の詳細で正確な報告をさせている。

【判決】

業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、旅行会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等を考慮すると、本件添乗業務については、添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、「労働時間を算定し難いとき」には当たらないとして、最高裁は未払いの時間外割増賃金と付加金を合わせて30万円の支払いを命じた。

2.行橋労基署長(テイクロ)事件

【判例】

従業員が会社の中国人研修生の歓送迎会に出席後,業務のために会社所有の車を運転して,会社に戻る際に,研修生を送る途中に起きた交通事故で死亡したことが業務災害に当たるかが争点となった事例。

 

この従業員の遺族である妻は,夫の死亡を労災として労基署に遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めたが,行橋労基署長は,業務上の事故ではないとして,不支給の決定をした。妻がこれを不服として,行橋労基署長の不支給決定の取り消しを求めた。

 

【事実の概要】

・会社で、中国の子会社から受け入れている中国人研修生3名の帰国と, 次に受け入れる中国人研修生2名の来日に際して,歓送迎会を開催することとした。

・Aは, 社長に提出する資料の作成があるため参加できない旨返事をしたが, 部長から, 最後だから顔を出せるなら出してほしいことと, 資料が完成していなければ本件歓送迎会終了後にAと一緒に資料を作成する旨を伝えられた。

・Aは, 資料作成を一時中断し, 作業着のまま社有車で本件飲食店に向かい, 午後8時ごろ到着し, 本件歓送迎会に参加した。 Aは研修生 からビールを勧められたがこれを断り, アルコール飲料は飲まなかった。

・Aは, 研修生らをアパートまで送ったうえでD工場に戻るため, 研 修生らを同乗させて社有車を運転し, アパートに向かう途中で交通事故に遭い, 死亡した。



【判決】

明確に会社の業務命令がなかったとしても,従業員の行動が任意なものではなくても,従業員が実質的に任意性がなかった場合には,会社の支配下にあるものとして、業務上災害に当たるとした。

 

・宝塚市消防庁事件

【判例】

副業で農産物を販売する団体や水道工事会社を経営したことなどを理由に兵庫県宝塚市が懲戒免職処分としたのは違法として、東消防署の元消防司令の男性(49)が市に処分取り消しを求めた訴訟の判決が26日、神戸地裁であった。倉地康弘裁判長は「免職は重すぎる」として取り消しを命じた。

【事実の概要】

平成12年に自らが発起人となり水道施設工事の施工を目的とする会社を設立、市区町村をはじめとした自治体から給水装置工事事業者の指定を受け、会社の代表取締役として取引をしていた。

・消防署から農作物販売、水道業に関して営利企業への従事に関する許可を受ける必要があることについて個別に指導を受けていた。また、部下には休日を利用して農作業の手伝いをさせ、報酬の支払いをしていた。

・平成19年11月より父親や知人の農家の作物をインターネットで販売をする業務に従事し、平成25年からは近隣のスーパーと業務提携を行い、本人が登録農家として農産物の販売を行った。

・妻子があるのに独身と偽って女性と交際し、妻帯者であることが発覚し訴訟提起されていた。

【判決】

倉地裁判長は判決理由で、市の許可を得ずに農産物を販売したことや、会社を実質的に経営したことなどは懲戒事由に該当すると認定した。一方で「多額の利益を得たとも、消防職員としての職務を怠ったとも認められない」と指摘。過去の事案と比較して免職処分は重く、裁量権を逸脱して違法だと判断した。

 

医療法人稲門会事件

【判例】

Y法人が運営する病院に勤務していた男性看護師Xが、3か月の育児休業を取得したところ,翌年度の昇給(職能給)が行われなかったため,昇給した場合の給与額との差額等の支払を求めた。

Y法人の育児介護休業規定は,3か月以上の育児休業を取得した場合は,その翌年度の定期昇給時に職能給を昇給させないと定めていたが,私傷病を除く欠勤,休暇,休業などの期間は含まない取扱いとしており、地裁で違法とまではいえないと判断されたため、Xが控訴して高裁で争われた。

 

【具体的事案】

・昇給については、1年のうち4分の1に過ぎない3ヶ月間の育休取得によって、能力の向上がないと判断し、一律に昇給を否定する点の合理性には疑問が残るとしつつも、年齢給の昇給は行われたこと、職能給の昇給が行われなかったことによる不利益が月2800円、年間4万2000円にとどまること等の理由を挙げて、昇給を認めなかったことは育児介護休業法10条の不利益取扱の禁止に反しないと判断された。

 

・昇給について、病院が、遅刻・早退・年次有給休暇・生理休暇・慶弔休暇等により3ヶ月以上の欠勤が生じても職能給の昇給を認める扱いにしていたが、育児休業により3ヶ月欠勤した場合に昇給を認めなかった。

 

・育児休業取得者に無視できない経済的不利益を与え,育児休業取得を抑制する働きをするものであるから労働者の不利益取扱いに当たり,かつ労働基準法が労働者に保障した権利を抑制し,
実質的に失わせるものであるから,公序に反し無効というべきである。

【判決】

・ Xの請求を認めなかった第一審判決を変更し,Y法人がXの職能給を昇給させなかっ たことは不法行為として違法であると判断し,Xの請求を認めた。

・昇格試験を受けさせなかったのは違法として、慰謝料15万円と昇給分の合計24万円の支払いを命じた。

 

 

熊本信用金庫事件

【判例】

被告熊本信用金庫(Y)との間で労働契約を締結しその後退職した原告ら(Xら)が、Yが導入した役職定年制に伴う就業規則の変更は無効であると主張した。

 

Yに対して、労働契約に基づき、本件役職定年制が適用されなかった場合の給与、賞与及び退職金とXらに実際に支払われた給与等との差額等の支払を求め、さらに原告X6は、不法行為に基づき、実際に支払われた雇用保険手当の基本手当との差額及びこれに対する遅延損害金の支払をそれぞれ求め提訴した。

 

【具体的事案】

・労働者にとって給与等の額は、その生活設計に直結する重要な労働条件であるところ、件就業規則の変更による給与等の削減幅は、年10パーセントの割合で削減されるという大幅なものであった。、

 

・Yの職員らが定年を迎える時点においては、50パーセントにまで達するものであって、役職定年到達後の労働者らの生活設計を根本的に揺るがしうる不利益性の程度が非常に大きなものである。


 

・労働者が当該就業規則の変更によって生じる不利益性について理解しながら積極的に反対の意思を表明することなく変更後の給与等を受け取っていたことをもって、本件就業規則の変更について黙示的に同意をしたと認めることはできない。

【判決】

・本件就業規則の変更は、労働者の受ける不利益の程度がその生活設計を根本的に揺るがし得るほど大きなものである一方で、労働条件の変更の必要性の程度が現実にYの破綻等の危険が差し迫っているほど高度なものではなく、代替措置は一応講じられているものの上記の不利益の程度と比較して不十分なものであるということができ、後記認定にかかるYの職員らに対する意見聴取や説明の経緯、多くの職員は本件就業規則の変更に同意していること等のその余の事情を考慮したとしても、合理的なものであるとは認められない。

 

熊本地裁は、X5とX9の請求を棄却し、これらを除くXらの請求の一部を認容した

 

今回は労務行政研究所 出版 いちばんわかりやすい労働判例集を参考にしています。