Listen

Description

第53回です。 

今回はがんの治療と仕事の両立というテーマでお話をしていきます。 

今回も読書感想回なのですが、2017年に設立された「がん患者、障害者等就労支援特別委員会」とい う支援団体に携わっている東京都社労士会が出版したものとなります。 

  

1.がん患者・障害者等就労支援特別委員会について  

設立の経緯や目的は?  

A.がん患者や障害者の就労支援やパラスポーツの普及活動を主にした団体だそうです。 

  

社労士の受験勉強では、雇用保険や労働基準法、健康保険法などが単元ごとに分かれてしまっていますが、

実際の日常では似たような傷病でも事例ごとに求められる知識が異なっています。

最後に著書につい ては説明をしますが、実務的な実際の相談内容とテキストを照らし合わせて学習に活かすことができる貴 重な本だったので、ぜひ受験生の方はチェックしてみてください。  

本編に入るまでに、まず公表されているデータについて軽く説明をします。  

まず、日本でがんに罹患する確率を厚労省のがん疾病対策課が公表しているのですが、男性で4人に1 人、女性で7人に1人の割合となっています。  

年齢的には男女ともに50代で発症が増加し、60以降は男性の罹患率が顕著に高くなります。がんに罹 患した後、継続勤務をする方は8割近く、退職者は2割ほどです。罹患患者の年齢が低くなるほど退職割 合が増加しており、診断確定時に退職してしまう方が多くなっています。理由としては若年層は勤続年数 が短いため休職制度の期間が短く、退職する場合が多いようです。  

  

  支援センターで働く社労士は

①会社にどう伝えるか  

②退職を促された際の対応  

③失業給付等の社会保障の手続き  

などを聞かれることが多く  

  

悩みを解決するために確認していく課題は、  

①治療状況  

がんの部位、ステージ、治療の副作用  

②就労状況  

雇用形態、雇用期間、職種、職場に病気を伝えたか  

③家族環境  

家族構成、家族の理解  

④本人の希望、思い 

仕事への気持ちや、御本人の中の仕事に対する意味や価値  

病気とどのように向き合って生活をしていくか  

  

の4つに分けられます。  

ケース1「配置転換と安全配慮」  

相談者は、50歳男性で胃がんの診断。製造業の交替勤務で4人家族です。  

【相談内容】  

手術で入院し、1ヶ月休職した。医師から半年は夜勤を控えるように言われたため日勤シフトにしてもら った。しばらく日勤で製造部の業務を続けていたが、日勤常勤の総務に配置転換となった。  現場以外の勤務経験がないため、デスクワークに不安があり、遠回しに退職勧告をされている気がする。  【社労士の回答】  

・人事異動は病気に対する身体的負担の軽減といった会社側の配慮と思われる。・企業として配置転換を行 う際のポイントとして  

①就業規則に定めがあるか  

②従業員個人との労働契約に勤務地限定や職種限定の定めの有無  

③企業で同様の配置転換が過去にあったか  

で判断される。  

労働条件変更に不利益がある場合は労働者の合意も必要。  

  

関連科目労働基準法  

  

ケース 1:配置転換と安全配慮  

Q.安全配慮義務に基づき、企業はどのような対応を取るべきでしょうか?

A.労働契約法5条に安全配慮義務に関する規定があります。

法令では、労働契約に伴い、生命、身体等の安全を確保し労働ができるように必要な配慮が求められています。具体的な内容は一律に定まるものではなく、労働者の職種、労務内容、職務提供場所などの状況に応じて必要な配慮をするようにと定められています。

夜勤を行う上で、生命や身体的な危険があると使用者が感じた場合は、労働者の希望も考慮したうえで、命を優先する必要があるため、できれば人の多い日勤帯で働いてもらうのは安心かもしれません。

Q。配置転換の正当性を判断するポイントを、具体的な事例を交えて解説してください。  企業が配置転換を行う場合、どのような手続きが必要ですか?  

A.前提として使用者は労働者との合意により労働契約の内容を変更することができます。

ただし、不利益の程度、内容の相当性が合理的な範囲であることが必要です。

具体的には変則勤務の手当が無くなることへの手取り収入の減収に対する配慮や、変更後の不慣れな業務に対する周囲のサポートなど、働きやすい環境を整えることが必要となります。

 

  

関連科目 労働一般 労働基準法

参考条文  

労働契約法 5 条安全配慮義務  

     8 条契約内容の変更  

     9 条就業規則による労働契約の変更