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今回は、前々回の第 54 回の疑問で、そーいちろーさんが古事記での記述について 聞いてきていたので解決します。  

①お蚕さんの古事記での語られ方。  

②日本書紀での語られ方  

③古事記、日本書紀のまとめ 

④民間伝承1馬と娘 

⑤民間伝承2、金色姫  

  

①お蚕さん、古事記での語られ方  

日本で最も古い歴史書は、「古事記」と「日本書紀」で、〔古事記〕の記述では、日本の 国造りの神話があり、蚕の起源神話もその中に載っている。 

 

あるとき、スサノオノミコト(アマテラスの弟)は、食べ物の神「オオゲツ姫の神」に、食 べ物を求めた。

そこで、オオゲツ姫は、鼻と口、お尻から、様々な美味しい食べ物を取 り出し、いろいろ料理をし、渡したそうだ。

しかし、この様子を見ていたスサノオノミコト は(さすがに怒るよな)、食べ物が身体中から出たので、「汚い物を差し出された」と思 い、オオゲツ姫を殺した。すると、オオゲツ姫の死体からは様々なものが生まれた。 頭からは蚕、目からは稲の種、耳からは粟、鼻からは小豆、性器からは麦、そして尻 からは大豆が生まれたのです。  

この神話には、いくつかの解釈があります。  

・女性が命を懸けて新しいものを生み出すことの象徴  

・米、麦、粟(あわ)、きび、豆の五穀を女神が死亡により生み出した  ・蚕糸が頭から生まれた 

稲作などの五穀と、蚕(衣服)とが一緒に伝来したのではないか?

さて、最初に話したのは古事記の逸話ですが、日本書紀にも記述が 2 通りあります。 

まず、イザナミノミコトが火の神のために亡くなり、死亡前に生まれた土の神、水の 神。そのうち、火の神と土の神が結婚し、ワクムスヒが生まれる。その神の頭と眉から は、蚕、桑が生まれる。さらに目と腹からは、五穀が生まれる。  

日本書紀には別の記述があり、  

次の記述では、ウケモチノ神はツクヨミのミコトをもてなすために、口から飯を出し、大 小の魚を出し、山の獲物を出す。しかし、怒ったツクヨミの神に殺され、牛馬、繭が頭 と眉から生まれ、額と耳からは粟、目と腹からは稗(ひえ)と稲、性器からは、麦と大 小豆が生まれた。」  

③3 つの神話に共通するのは、「死体化生神話(したいけしょうしんわ)」といって、神 が死に、その死体からさまざまな事物が発生したという形式の神話。  死体から生まれたものは、7 世紀、奈良時代の社会でも必要とされたもので、コメ、 麦、マメ、ヒエ、アワなどの五穀と、絹(かいこ、くわ、まゆ)が国家を維持するために欠 かせない貴重品で、養蚕は国を上げた産業だったとされる。 

絹は貨幣の役割を持っていた。牛馬も、当時の農業などの生産力をあげるために必 要があり、死体から当時の大事な農業生産物が化けて生まれたことに意味があるみ たい。また、一説には、朝鮮語と古代日本語の発音に、生まれたものが合致するとい う説もある。  

古事記、日本書紀を作った時期は、そのような情勢を背景として、進められた。  

④4 世紀の東しん  

家畜の馬に娘が悪戯で「もし、お前が私のために父を迎えに行けば、お前の嫁になろ う」といった。馬が娘に懸想する様子を見て、主が馬を殺し、皮を這いで、庭に干し た。すると、馬の皮が、娘を巻き込み、蚕に変身していた。蚕はやがて、木の上で糸を はき、繭をつくった。岩手、福島、静岡、徳島や、柳田国男が綴った「遠野物語」にも似 たような筋書きの物語が載る。 

これらは古い中国の説話で、中国の古い書物には、馬頭娘(バトウジョウ)は蚕の 神。養蚕起源の伝承はまた信仰としても、その土地に根付くことになった。  

⑤金色姫の受難と養蚕の起源  

金色姫は4つの死にそうな苦難を乗り越え、桑の木で作られたうつろ船に乗って日本 へ辿り着く亡くなってしまう。夢の中で、姫の姿を見た夫婦が蚕を発見する。4回休ん で、繭を作ったとされる。

これが養蚕技術の起源と伝えられている。  金色姫の物語は各地に伝わり、養蚕の起源として語り継がれる。

茨城県、山梨県、東 北地方、東京都など各地に伝承が残る。養蚕技術は天竺(インド)から中国を経て日本へ伝わったという流れが説話で表現されている。死んで神となり、蚕になる部分は 馬と娘の話や記紀の神話とも共通し、信仰と生産活動の結びつき、養蚕の位置づけ を示している。

 

※うつぼ舟、かがみの舟は、「たまのいれもの」、つまり「神の乗り物」である。かがみの舟 は、荒ぶる常世浪を掻き分けて本土に到着したと伝わっていることから潜水艇のようなも のであった

※詳しい受難の内容  

金色姫は継母に迫害され、様々な苦難を経験する。  

① 獅子のいる山に捨てられるが、無事に帰還。  

② 鷹、熊、鷺のいる山に捨てられるが、家来に助けられる。  

③ 草木が育たない島に流されるが、釣り人に救われる。  

④ 家の庭に穴を掘られ、埋められるが、100 日後に蘇る。  

今回の参考書籍を紹介します。 

1:ものと人間の文化史 68-1 絹1 伊藤智夫(としお)著法政大学出版局 1992 

2:いまに伝える農家のモノ・人の生活館 オオダテ・カツジ 著 柏書房 2004