今回はがん治療と就労の両立支援について5つの項目でお伝えをします。
①「夫の病気と介護休業の要件」
②「介護休業と就業規則」
③「退職勧奨と解雇」
④「入院中の解雇」
「夫の病気と妻の介護休業」
40代夫婦 共働き家庭
【相談内容】
妻からの相談。夫の介護のため、休業したい。夫はステージ2の肺がん。
転移がなければ職場復帰も可能。夫の会社にはまだ連絡していない。
夫が職場復帰をするまではそばにいて、看病がしたい。
妻の勤務先には介護休業制度があるため、利用したい。
【社労士からの回答】
介護休暇は2週間以上にわたり常時介護が必要な状態な場合に、年間5日まで取得可能。
介護休業は対象家族に通算93日を3回に分けて取得が可能。
雇用保険から介護休業給付が取得でき、休業開始時賃金日額の67%の補償がある。
退院後の病状によっては介護保険第2号被保険者であるため介護保険サービスの利用も検討し、市町村に要介護認定の申請も含めて想定するとよい。
関連科目
雇用保険法 労働一般
関連条文
雇用保険法39条 介護休業給付
育児・介護休業法 全般
事前質問:介護休業給付の種類と、支給額の計算方法について説明してください。
A.休業開始時賃金日額67%,休業終了から2ヶ月以内申請
2つめのテーマ「介護休業と就業規則」についてお話します。
4,50代の共働き夫婦、4人家族。
【相談内容】
夫に早期胃がんが発見。入院から自宅療養を含めて1ヶ月程度の休業が必要であるが、転移が確認されると休業期間が延長される。
夫が元気になるまで付き添うため、介護休業の申請がしたい。
妻の働く会社には介護休業の規定があると思われるが、過去に就業規則の確認を要求した従業員が会社からの嫌がらせを受けて退職したケースがあり、躊躇している。
年次有給休暇を取得することも考えたが会社に用途を伝えて許可を得なければならないため、不安がある。
【社労士からの回答】
介護休業は常時介護が必要な状態に該当しなければ制度として利用できない。
就業規則は法令上、従業員に周知をしていなければ効力を発揮しないため、会社側は誤った対応をしている。
年次有給休暇は労働者の権利であり、使用者の許可に関わらず取得することが認められている制度である。
しかし、会社との関係悪化は懸念すべき点であるため、入院期間のみ有給を申請したり、退院後は義理両親に手助けを依頼するなど、妻のみが介護に携わるのではない方法も思案すべき。
関係科目 労働基準法
関連条文
労働基準法39条 年次有給休暇
106条 法令の周知義務
育児・介護休業法12条 介護休業申し出による事業主の対応
事前質問:就業規則の周知義務について、具体的な事例を交えて解説してください。
A.労働基準法第106条において、「使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない
※フリートークは5分程度目安
3つめのテーマ「退職勧奨と解雇」
40代女性 独身
【相談内容】
検診を受けて乳がんが見つかったため、会社に伝えて1ヶ月ほど休業した。
休業期間は有給を使用し、20日残っている。
放射線治療があるため、毎日通院が必要で、時短勤務の対応をしてもらっている。
あと2週間は継続して治療が必要であるが、会社より「治療に専念して退職したほうがいいのではないか」と言われた。
会社を辞めるべきかどうか。
【社労士からの回答】
放射線治療が2週間で終わることを会社に伝えたかどうかが大切。治療に終了の目処がないと思って退職について打診した可能性もある。
会社からの通告は解雇ではなく退職勧奨である可能性もある。
退職勧奨は会社が退職を勧めるだけで、退職に応じる必要はない。
勧奨であれば「働き続けたい」意思を会社に表明する必要がある。
退職勧奨に応じない意思を見せても、退職を強要される場合は違法となる。
解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとい認められなければ無効となる。
解雇の正当性の有無は就業規則などの定めによる。
解雇の場合は失業等給付の申請で、雇用保険の基本手当の給付制限期間がなくなったり
30日間の解雇予告手当を受け取る権利なども発生する。
関係科目 労働基準法
関連条文
労働基準法16条 解雇
20条 解雇予告
22条 退職証明
事前質問:退職勧奨に応じない場合、会社はどのような対応を取ることができますか?
4つめのテーマ「入院中の解雇」
50代男性 3人家族
【相談内容】
胃がんの手術をして1ヶ月半で会社に復帰。
その後、肝臓に転移が確認され、医師からはすぐに復職が難しいと判断された。
残っている有給もなくなってしまい、会社からは有給もなくなり、「休暇制度も使っているため月末で退職してほしい」と伝えられた。退職願は書いていないが、会社から保険証を返すように言われて渡してしまった。
【社労士からの回答】
病院より限度額適用認定証が使用できなくなったと説明があったため、すでに退職手続きが完了したと思われる。
医療保険に未加入状態であるため国民健康保険に加入するか、以前の会社の健康保険組合に任意継続するかを選択する必要がある。健康保険組合に任意加入するには退職から20日以内に手続きが必要。
傷病で働けない場合は失業給付の受給期間の延長が可能であるため、手続きが必要。
関連科目 健康保険法 雇用保険法
関係条文 健康保険法37条 任意継続被保険者
雇用保険法20条 支給期間および日数
事前質問:退職後、どのような健康保険制度を利用できますか?それぞれのメリットとデメリットを比較してくださ い。
おわりに
病気で働けない場合は健康保険から傷病手当が通算して1年6ヶ月の受給をすることができます。
しかし、がんのように長く付き合う病気の場合、傷病手当の受給をしてから数年後に再発する場合が多くあります。
社会保険では「社会的治癒」という概念で対応がされており、医学的には同一の傷病でも再発までに期間が空いて治療を受けずに社会復帰した場合は、一度治ったものと判断されます。
再発したがんは再度傷病手当が受給できます。
傷病が慢性的で、再発、転移が生じやすい場合は1年程度の社会的治癒と判断される期間が必要だと過去の判例で目安になっています。
しかし、社会的治癒の具体的な期間や症状は明確にされておらず、それぞれの保険者に判断が任されています。
病気になったときは、様々な制度、法律が複雑に絡み合うというのがこの本を読んで感じたことです。
何から手をつけるべきかわからないことだらけになるかもしれません。
そんなときは社会保険労務士に助けてもらいましょう。
今回の参考書籍を紹介します。
1:東京都社労士会 がん患者就労支援特別委員会 がん治療と就労両立支援ハンドブック
2:通信教育アガルート 社会保険労務士テキスト 関連科目