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1つめのテーマ「職場内での政治活動:電電公社目黒電報電話局事件」についてお話します。

電電公社の職員が、「米軍立川基地反対」「ベトナム侵略反対」と書いたプラスチックのプレートを着用し勤務した。公社はプレートの取り外しを命じたが、職員は従わなかった。また、上司の許可なくビラ数十枚を休憩時間に他職員に手渡したり、机の上に配置した。

公社は職場内での過度な政治運動を制限する就業規則違反に該当するとして懲戒処分とした。

 最高裁は、プレートやビラが職務上注意力が散漫となることから、職務専念義務に違反し規律秩序を乱すものとした。職務の職場における政治活動の自由と、事業運営の円滑性とのバランスが重要なポイントとされた。

2つめのテーマ「 富士重工業事件(調査協力義務違反)」についてお話します。

従業員が就業時間中に上司に無断で「原水爆実験禁止」の署名を求めたり、原水爆禁止運動の資金調達のためにハンカチの作成や他重量員への販売を行った。

 富士重協業は関係者に事情を聴取したが、ハンカチの作成などに反問や返答の拒否をした。富士重工業は調査協力に反したとして懲戒処分としたが、不服とした従業員は解雇無効として提訴した。

 最高裁は、調査に協力すべきことが、職務内容となっている場合は協力義務を追う必要があるが、会社が従業員のプライバシーを侵害するような調査を行うことは許されないと判断した。 従業員には、特段の事情がない限り、会社の調査に協力する義務はないとしました。

3つめのテーマ「洋書センター事件(労働協約事前協議約款の効力)」

 洋書や教育関連書籍を販売する書店が、賃借ビルの建て替えのため仮店舗に移転することを社内労働組合に通告した。労働組合は店舗面積が狭くなることが労働条件低下につながるとして反対した。

 書店は代替をいくつか提案したが労働組合が却下したため、仮店舗の引っ越しを強硬したところ、従業員は社長を旧店舗に連行し、長時間にわたり軟禁し、暴行傷害を実行した。その後、従業員は旧店舗を占拠した。

 書店は従業員を懲戒解雇としたが、労働協約には労働条件の変更には事前協議が必要であるとして提訴した。

 最高裁は、労働組合はパートを除くと、問題を起こした従業員しか加盟しておらず、会社と労働組合の信頼関係は完全に欠如している。事前協議をすること自体、社長が軟禁状態で暴行されていたことから不可能であったことから、解雇無効はできないとした。


4つめのテーマ「書泉事件(損害賠償責任)」

書店、雑誌を販売する従業員が100人いる本屋で、労働組合が賃上げの要求実現を目指しストライキを実行した。ストライキは事業活動を妨害したり、就労しようとする従業員を説得したりするピケッティングを伴った。店舗の出入口、ショウウィンドウ、ガラスにステッカー、ビラを多量に貼り付け、スローガンを書いた横断幕を張り、店の出入り口にはゼッケン、鉢巻をした従業員が座り込んだ。ハンドマイクを使用し、顧客に入店を阻止したり、顧客を取り囲み店の外に追い出した。書店は事業継続のため、臨時従業員を50名雇い入れ、営業を再開し、争議行為が違法であるとして、労働組合に対し損害金9700万円の賠償請求をした。

最高裁は、労働組合が顧客に対する不買運動やビラの配布にとどまらず、顧客を取り囲み店外に押し戻す行為は平和的説得の範囲を超えており、違法とした。


5つめのテーマ「使用者の操業継続の自由:山陽電気軌道事件」

バス会社では労働組合との団体交渉が難航しストライキが必至の情勢となった。ストライキに加盟しない組合の従業員の就労を前提に、バスの運航を行うために車両を確保しようとした。バス会社は第三者の管理する建物に営業を終えたバスを分散して隠したが、ストライキを決行した労働組合は回送中や路上駐車したバスを奪って労働組合の支配下に置いて対抗した。

バス会社は取引先の整備工場や自動車学校からバスを確保するために建造物に侵入し、労働組合は車両確保戦術の実行のため、暴力を伴うことがあった。

労働組合に加盟した組合員には暴行罪、威力業務妨害、傷害罪などで起訴された。

最高裁は、争議行為に対抗する措置を取ることに問題がなく、威力業務妨害として保護される手段として支障がないとした。


昭和の労働判例、どれもが現代の労働環境にも通じる問題を含んでいることに驚きました。特に、職場での政治活動の自由と会社の秩序維持のバランス、プライバシー侵害の境界線、労働協約の重要性など、今も議論の余地があるテーマばかりです。

先日、クリストファー・ノーランのオッペンハイマーという映画を観ましたが、戦争の爪痕が如実に労働判例としても歴史に刻み込まれているのが印象的です。

電電公社事件での政治活動の制限は、現代のSNSでの発信にも繋がりうる問題提起だと感じました。富士重工業事件でのプライバシー侵害は、企業による従業員の監視問題にも通じます。洋書センター事件での労働協約の重要性は、労働組合の役割を改めて考えさせられました。書泉事件でのストライキの違法性は、労働者の権利と会社の業務妨害の線引きの難しさを物語っています。