今まで、ラジオでは最高裁での労働判例を何度か取り上げてきました。しかし、労働争議がすべて裁判になるわけではありません。
裁判となると問題解決が長引いてしまい、その分お金もかかります。
会社ともめ事が起きた際に、裁判になるのを未然に防ぐために、都道府県労働局には助言指導を行う役割や、紛争調整委員会に争いごとの解決の手助けをあっせんさせる仕組みがあります。
今回は、裁判になる手前に労働争議の解決を図るための法律である、個別労働紛争解決促進法を3つのテーマで解説していきます。
では、一緒に知識の上書き保存をしていきましょう。
1つめのテーマ「紛争調整委員会ってなに?」についてお話します。
紛争調整員会は、労働争議があった際に、問題解決の手助けをする機関です。
委員の任期は2年で、非常勤の国家公務員。厚生労働大臣が学識経験者を指名します。
働く上でのもめ事相談を受けた紛争調整委員会は、弁護士、紛争解決手続代理業務試験に合格をして付記を受けた特定社会保険労務士、司法書士などの担当委員にあっせんをします。
問題解決のあっせんでは、紛争当事者それぞれに話を聞く個別方式と、同席させて話を聞く対面方式の2つがあります。
2つめのテーマ「労働紛争調整員会に依頼される労働争議の傾向」についてお話します。
労働争議となる原因は多種多様ですが、項目は共通したの11項目に分類されます。
1.普通解雇:予告なく解雇されたり、解雇時に解雇理由証明書の交付をしないことなど
2.懲戒解雇:軽微な違反行為でも減収処分を経ずにいきなり懲戒をするといったケース
3.整理解雇:経営事情のみを勘案し、リストラを避ける努力をしていない場合
4.退職勧奨:退職の勧奨にとどまらず、退職の強要をしたり、いじめと結びついていたり、労働条件の引き下げが伴うなど、発展するケースは様々
5.雇止め:有期雇用の途中で雇用を打ち切る場合
6.退職金:退職金の不支給や支給手続きが不明瞭の場合
7.採用内定取り消し:労働争議に発展するのは取り消し理由が不明瞭である場合
8.いじめ、いやがらせ:過度なパワハラが精神疾患を引き起こし、労働災害になる場合
9.労働条件引き下げ:合意のない一方的な労働条件の引き下げや、雇い入れ時と労働条件が相違した場合
10.労働者派遣について:派遣元の管理や、派遣契約が不明瞭である場合
その他:賃金、賞与:ボーナスの不支給や離職票を発行せずに失業給付が受給できないこと、有給休暇の利用などについての労働争議も増えています。
3つめのテーマ「具体的なあっせん事例」
先ほど紹介した事例の一つである「使用期間終了時の整理解雇に関するあっせん事例」について紹介します。
4月に入社した労働者が3か月の試用期間を経て、経営不振を理由に解雇されました。
労働者は上場準備に伴う整備のため採用され、前職の実務経験もあったが、試用期間を経過してから、雇用が打ち切られた。
企業は業績が赤字化しており、上場どころか業務縮小を余儀なくしていた。他従業員の残業縮小など経費削減策を実施したが、改善に至らず人員削減に至った。
整理解雇をするためには
1.人員削減の必要性
2.解雇回避努力の履行
3.被解雇者選定の合理性
4.手続きの相当性
といった4要件が必要であるが、
解雇理由に説明がなかったことや、他部署で人員を増やしていたり、会社の対応が不十分であったため、あっせん委員会は和解金について双方の主張を調整した。
企業は1か月分の給与30万円を解雇予告手当として提示したが、労働者が和解金100万円を求め、会社が50万円で譲歩した結果、裁判には至らなかった。
社労士の受験勉強の科目の中で個別労働紛争解決促進法は「労働法に関する一般常識」で出題されます。受験勉強をするうえではあまり触れることがない項目なのですが、各事例を見ていくと、双方の主張には大きなズレがあります。
・能力不足で解雇をされる場合に、「誰よりも早く出社して、たくさんの仕事をこなしがんばって働いた」と主張する労働者と「仕事が遅すぎて、間違いも多い」と反論する企業
・勤務態度不良を注意されて解雇となった場合に「商品の発注ミスや見積書の間違いは上司の指示通りしたから悪くない。シフトが急に変わったのが嫌だったから、早退して家に帰っちゃったけど、解雇はひどいから告訴したい」労働者に対し、
「遅刻も多く勤務態度も悪いため、会社に来てほしくない。シフトが嫌だから家に帰っちゃうのは職務放棄であるため、解雇予告手当を支払った」とする企業。
労働者側に責があるとしても、何度か注意を繰り返さないと解雇は有効とはならないため、いずれも和解金の交渉で解決しています。
今回の参考書籍は2016年に出版されており、10年近く前の本ですが、実際の主張を労働法に置き換えて、整合性を紐づけていく考え方を理解することができるため、
面白く読み応えがある内容であったため、おすすめです。
今回の参考書籍を紹介します。
1:個別労働紛争あっせん制度の実務と実践 第一法規 特定社労士小林包美
2:資格の大原 社会保険労務士テキスト 関連科目