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今回は、労働災害補償法より、労災事例と、具体的な判断方法について話をします。

ここ数年間の社労士試験で精神疾患の労災認定に関する出題が多くなり、判断基準や事例も複雑化している傾向にあります。

労災の判断をするには、順序があります。

労災請求→疾病の該当→発病時期→当事者の主張→事実認定→心理的負荷の評価→全体評価→業務上認定→支給決定

パワハラ、カスハラなど、業務に起因するストレス要因により、精神疾患が生じた場合は、原因の心理的負担を「弱」「中」「強」で判断をします。

心理的負担の判定の強度により、労災給付の金額が変動する仕組みになっています。

では具体的な事例を見ていきましょう。

1.勤務が原因で適応障害になった件

認定事実:

①「聞かなくてもわかるだろ」「なんで聞いてこないんだ」と日常的に怒鳴られた。

②業務上のトラブルで、認識違いが生じた際には上司が大声を上げて、他部署の従業員が上司を止めに入った。

③他部署から見ても怒り方に恐怖を感じるほどであった。

判定:強

審査会の審議中に上司は「礼儀がなってない、うなづき方が悪い、言い訳が多い」と自己の非を認めず、前任者も「なんでこんなミスをする、殺されたいのか」と発言があったと証言していたため、業務の範疇を超えていると判断。

2.上司とのトラブルでうつ病になった件

認定事実:

①複数回にわたり同じ内容の指導を受けた。

②上司から「俺をdisappoint(落胆)とirritate(イライラ)させた!」

「幼稚園児みたいに言うな」「未熟、幼稚」と非難された。

③上司から会社の意向として本人に業務改善を求めたが、本人から理解が得られず、結果同じ発言を繰り返すこととなった。

判定:中

会社が業務改善を求めたが、本人が納得せずに同じ内容の話し合いが延々と繰り返されていた。発言の一部を切り取るのではなく、全体評価としてパワハラには非該当として、心理的負担の判断をした。

3.育休を取ったら適応障害になった件

認定事実:

①育児休暇を取得し、主任に復職した。

②復職すると、倉庫やカビだらけの冷蔵庫の掃除など雑用指示ばかり与えられた。

③待遇について改善を求めたが、事実を知った同僚より「あんたはもう終わってるんだから無駄」と言われた。

判定:強

復職後に主任職から降格される辞令も出されており、育児・介護休業法違反も認められた。人事に相談したが、なんの処置もされなかったなど、複数の心理的負担が認定された。

4.データベース移行でうつになった件

認定事実:

①取引先からサーバーの移行を求められた。

②クライアントの注文は条件が厳しく、納期も短いことを会社が認定しており、取引先とのやり取りに苦痛を感じていることを認識していた。

③移行作業は保証対象外の方法を取らざるを得なかった。

判定:中

厳しい条件下での注文であったが、結果としてクライアントの要望に答えることができたため、想定外の困難な調整は発生していない。

保証外の手法は本人の発案で、無事に処理することができていた。

5.幼稚園教諭が退職を強要されて鬱になった件

認定事実:

①園長より2月末に正規職員から嘱託職員、臨時職員への変更を強要された。

②拒否をしたが、退職と変更以外の選択肢が与えられなかった。

③意見を聞き入れてもらえないことが原因で適応障害を発症した。

判定:弱

幼稚園には定年退職制度があり、その他従業員も定年後は職種変更をする同じ扱いを受けていることから、園長の言動に違法性がなかった。

6.洗車業務に従事していて鬱になった件

認定事実:

①通勤途中に危険運転の通報を受けていた。

②会社からあおり運転について、指導を受け、誓約書を書いていた。

③誓約書から数ヶ月後に、危険運転の様子をyoutubeに投稿された。

④退職勧告を受けたため、精神的に落ち込んでいた。

判定:弱

前方車両に異常に接近したこと、センターラインを大幅にはみ出すなどの運転の事実が認められており、解雇について本人もなっとくしていた。

7.同僚の事故を目撃して鬱になった件

認定事実:

①デパートで洗剤のデモンストレーションをしていた際に、洗剤ボトルが破裂し、一緒にいた同僚が両目を負傷し、激しく鼻血を噴出した。

②本人は無傷で、同僚の受診結果は軽症で、ほどなくして業務に復帰した。

判定:弱

生命に支障はなく、視覚的な印象に比べて悲惨な結果とはなっていない。

さて、いかがでしたか?

参考図書は4部構成になっており、前半は1つ架空事例をもとにして、労災認定のメカニズムを順序立てて説明をしています。

後半は本編で紹介したように、数多くの個別事例を紹介しており、それらの判断基準をわかりやすく噛み砕いてくれています。

本試験でいきなり目にすると、難しく感じてしまう事例も多いのですが、この本を読めば、自分の中のパターンの引き出しを増やすことができるので、とてもおすすめです。

社労士受験生以外の方も、具体的な労災の事例を把握しておくことはご自身の働き方を見直すきっかけになりますよ。

参考書籍:精神障害の労災認定 しくみと判断事例

中野公義(キミヨシ) 元労働基準監督官著 日本法令