黒トカゲが海に逃げることを確信した明智が方々に指示を出していた、その翌日の深夜。
真っ暗な夜の海に、波にもまれながら一艘の貨物船が東へと進んでいた。
ただの貨物船に見えるその船の中は、豪華な船室が広がっている。
なかでも高価そうな家具が並ぶ部屋には、一つだけ他と雰囲気の違う長椅子が置かれていた。
原稿:江戸川乱歩『黒蜥蜴』青空文庫