Vegas A, Wells B, Braum P, et al. Guidelines for Performing Ultrasound-Guided Vascular Cannulation: Recommendations of the American Society of Echocardiography. J Am Soc Echocardiogr. 2025;38(2):57–91. doi:10.1016/j.echo.2024.12.004
🧠 背景
血管への穿刺(カニュレーション)は医療現場で頻繁に行われる手技であるが、従来のランドマーク法では成功率や安全性に限界がある。近年、超音波の普及により、穿刺部位の可視化やガイド下操作が現実的かつ実用的となってきており、標準化の必要性が高まっている。
🔬 方法
本ガイドラインは、アメリカ心エコー学会が中心となり、1990〜2023年の文献を系統的にレビュー。成人および小児における中心静脈・末梢静脈・動脈への超音波ガイド下カニュレーションに関して、専門家の合意とGRADEシステムに基づいて推奨をまとめた。
📊 結果
超音波ガイド下カニュレーションは、従来のランドマーク法に比べて、初回成功率の向上、穿刺回数の減少、合併症の低下を一貫して示している。
・内頸静脈穿刺では71%の成功率改善が報告されており、GRADE 1A(強く推奨・高品質エビデンス)に位置づけられている【34,35】。
・鎖骨下静脈や大腿静脈でも、成功率が高く、機械的合併症が少ないとするランダム化比較試験が複数存在する【41,56】。
・末梢静脈やPICCラインでは、難易度の高い穿刺でも成功率90%以上を達成。特に静脈が見えにくい・触れにくい患者での効果が顕著【65,66】。
・橈骨動脈穿刺では、11件のRCTを含むメタアナリシスにおいて、初回成功率向上・穿刺時間短縮・血腫リスクの低下が示された【87】。
こうした結果は、成人・小児・救急・ICU・麻酔など、多様な臨床環境において再現性が高く、本ガイドラインは「超音波は“あると便利”なオプションではなく、“標準的に使うべき”道具である」と明確に主張している。
💡 考察
本ガイドラインは、単なる技術の解説ではなく、「医療安全の再定義」を意図している。血管アクセスにおける「失敗」や「合併症」は、もはや“仕方ない”ことではなく、“回避すべきリスク”となった。
超音波を用いれば、穿刺前の血管評価、ガイドワイヤー確認、合併症の即時検出が可能となり、単なる穿刺支援ツールから「診断・安全モニタリングツール」へと進化している。とはいえ、道具としての性能を活かすには、確かな技術と教育体制が欠かせない。針とプローブの同時操作、画像の正確な解釈、滅菌操作などは、経験とトレーニングによって初めて安全に使いこなせる。そのため、ガイドラインは今後の方向性として、教育プログラムの整備・技術習得の標準化を強く求めている。
✅ まとめ
本ガイドラインは、血管カニュレーションにおける超音波の使用を「推奨」から「標準」へと進化させる内容である。適切な訓練を受けた医療者が超音波ガイド下に手技を行うことは、成功率の向上と患者安全の確保に直結する。