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Edwards W, Chow L, Zaphiratos V. Postdural puncture headache in obstetrics. Can J Anesth. 2025;72:1163–1178. doi:10.1007/s12630-025-03013-2.

🧠 背景

硬膜穿刺後頭痛(PDPH)は、産科領域における脊髄幹麻酔や硬膜外麻酔の合併症として知られている。分娩期の女性に特有のリスクがあり、生活の質や母乳育児、退院後の生活に大きな影響を与える。近年は穿刺針の改良や手技の工夫によって頻度は減少しているが、依然として重要な臨床課題である。

🔬 方法

本レビューは、産科におけるPDPHの発生機序、リスク因子、予防法、治療法に関する最新のエビデンスを整理した。特に無痛分娩に伴う硬膜外麻酔での偶発的硬膜穿刺と、その後の管理が焦点となっている。

📊 結果

PDPHの発生率は穿刺針の種類と口径で大きく異なる。小口径のペンシルポイント針では1%未満である一方、Tuohy針による偶発的硬膜穿刺では40〜80%に頭痛が生じる。典型的な発症時期は分娩後12〜48時間で、約90%は5日以内に症状が出現する。

自然軽快は1週間以内で約30%、2週間以内で50〜70%にみられるが、強い頭痛で日常生活に支障をきたす例が多い。

治療的硬膜外血パッチの初回成功率は約70%、再施行を含めると90%以上に改善が得られる。効果発現は24時間以内が多く、持続的改善が期待できる。一方、カフェインの静注は一時的な軽快が50〜70%にみられるが、再燃が多く根治的治療とはならない。

💡 考察

PDPHは母体の回復過程に強く影響するため、予防よりも早期診断と適切な治療介入が重視される。血パッチは依然として標準治療であるが、施行タイミングや再施行の判断は施設や症例により異なる。産後の女性に対しては、疼痛緩和のみならず母児関係への配慮が求められる。

✅ まとめ

産科領域におけるPDPHは依然として重大な合併症である。発生率は穿刺針の種類により1%未満から80%近くまで幅がある。診断には発症時期や体位依存性の頭痛が重要であり、治療では硬膜外血パッチが初回で7割、再施行を含めて9割以上に有効である。今後は予防策や非侵襲的治療法の開発が期待される。

最後まで聞いてくださってありがとうございます。

🩸 硬膜外血パッチ(Epidural Blood Patch, EBP)のまとめ

施行タイミング

・発症直後(24時間以内)は成功率が低めで再発も多い

・症状が強ければ発症24時間以降に施行するのが一般的

・軽症例はまず保存的治療(水分・カフェインなど)で経過観察する

注入する血液量

・推奨は 15〜20mL

・15mL未満では効果不足のリスク

・20mLを超えると疼痛や神経圧迫のリスク増大

・注入はゆっくり行い、痛みや放散痛があれば中止

穿刺部位と体位

・穿刺は 偶発的硬膜穿刺部位と同じか1椎体下 が推奨

・体位は 側臥位が多用(患者の快適性と安全性)

・座位も可能だが分娩後の女性には負担が大きい

成功率

・初回成功率:約70%

・再施行を含めると 90%以上に改善が得られる

施行者

・原則として、経験豊富な医師による管理が必要

・レジデントは指導医監督下での施行に限られる