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Dumitrascu CI, Eneh PN, Keim AA, Kraus MB, Sharpe EE. Anesthetic Management of Parturients With Achondroplasia During Labor and Delivery: A Narrative Review. Anesth Analg. 2025;141:779–792. doi:10.1213/ANE.0000000000007397.

🧠 背景

軟骨無形成症(achondroplasia)は遺伝性骨系統疾患の中で最も一般的であり、妊婦では呼吸器系や脊椎の解剖学的特徴により、分娩や麻酔管理が特に難しい。短軀や胸郭の狭小化、腰椎前弯、頭蓋底の形態異常などがあり、母体・胎児双方の安全確保のためには、周到な周産期管理が求められる。帝王切開率は一般妊婦に比べ高く、脊髄幹麻酔の可否や気道確保の難易度が課題である。

🔬 方法

著者らは1960年以降に報告された軟骨無形成症妊婦の麻酔管理に関する文献を系統的にレビューし、麻酔法の選択、合併症、分娩転帰などを整理した。対象は英語文献に限定され、症例報告・症例シリーズを中心に解析が行われた。

📊 結果

このレビューには、57本の文献に報告された80例の妊婦が含まれていた。麻酔法の内訳を見ると、全身麻酔が16例(20%)、脊髄くも膜下麻酔が28例(35%)、硬膜外麻酔が17例(21%)、CSEAが12例(15%)、そして持続脊髄くも膜下麻酔が1例(1%)であった。

区域麻酔は合計64例で試みられ、そのうち6例(9.4%)が全身麻酔へ移行されていた。理由としては、穿刺不能が3例、ブロック不十分が2例、高位ブロックが1例と報告されている。最終的に58例で脊髄幹麻酔が成功しており、その内訳は脊髄くも膜下麻酔28例、硬膜外麻酔17例、CSEA 12例であった。

しかし、解剖学的特徴の影響により11例(約19%)で穿刺困難や複数回試行が必要であり、そのうち4例では超音波ガイドを用いることで成功していた。区域麻酔後の合併症は全体の約12%にみられ、低血圧が4例(6.3%)、一過性の感覚異常が3例(4.7%)、偶発的硬膜穿刺1例(1.6%)であった。また、14%の症例では術中に局所浸潤・静脈麻酔・吸入麻酔などの補助投与を必要としていた。

全身麻酔を選択した症例では、喉頭鏡による挿管が3例、ビデオ喉頭鏡が1例、覚醒下ファイバー挿管が1例行われており、1例ではGrade IIIの視野のためブジーを併用していた。いずれの症例も母体死亡は報告されていない。胎児転帰については極めて良好で、Apgarスコア7以上が全体の90%以上を占めていた。

💡 考察

脊髄幹麻酔は依然として推奨される第一選択であるが、低用量投与・分割投与など、過剰麻酔を避ける慎重な戦略が求められる。画像ガイド(超音波やMRI)による術前評価が有用であり、気道困難を想定した多職種チームでの計画的対応が必須である。さらに、産科・麻酔科・新生児科の連携体制が母児の安全性を高める。

✅ まとめ

軟骨無形成症妊婦の麻酔管理は、脊椎・呼吸・気道の特徴を考慮した個別化アプローチが鍵となる。脊髄幹麻酔は第一選択であるものの、解剖学的変異に応じた慎重な実施が求められる。全身麻酔を要する場合には、挿管困難・換気障害を予期した準備が不可欠である。今後は、画像評価と多職種連携に基づく安全指針の標準化が期待される。

軟骨無形成症合併妊娠に対して全身麻酔下に選択的帝王切開術を施行した1例