Zhang C, Qu Y, Cao Q, Tao Y, Huai X, Xuan W, Pan Z, Wang X, Tian J. Effect of intraoperative dexmedetomidine on prognosis in patients with cancer undergoing surgical procedures: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Anaesthesia. 2025;135(1):89–98. doi:10.1016/j.bja.2025.02.041.
🧠 背景
デクスメデトミジンは、鎮静・鎮痛・交感神経抑制作用をもつα₂アドレナリン作動薬である。近年、がん患者の手術中に使用することで、腫瘍再発や生存率に影響する可能性が指摘されている。しかし、これまでの臨床研究結果は一貫しておらず、全体としての予後への影響は明確ではなかった。
🔬 方法
PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどを用い、2024年11月までに発表された無作為化比較試験および観察研究を系統的に検索した。対象は悪性腫瘍手術を受けた成人患者で、術中にデクスメデトミジンを投与した群と、非投与またはプラセボ群を比較した。主要評価項目は全生存率(overall survival)および無再発生存率(recurrence-free survival)。二次的に術後炎症マーカーや免疫指標、合併症発生率も解析された。解析はランダム効果モデルで行われ、オッズ比(OR)またはハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)が算出された。
📊 結果
合計14研究・計6,843例が解析に含まれた。
・全生存率:デクスメデトミジン群は対照群に比べて有意に改善(HR 0.77, 95%CI 0.64–0.92, p = 0.004)。
・無再発生存率:有意差なし(HR 0.91, 95%CI 0.73–1.13, p = 0.38)。
・短期死亡率(30日以内):差なし(OR 0.94, 95%CI 0.71–1.23)。
・炎症マーカー(CRP)は術後24時間で低値傾向(平均差 −6.8 mg/L, 95%CI −10.9~−2.7)。
・免疫指標(CD4/CD8比)は上昇(標準化平均差 +0.42, 95%CI 0.11–0.73)。
・がん種別サブグループでは、乳がんと胃がんで全生存率の改善が一貫して認められた(乳がんHR 0.68, 胃がんHR 0.74)。
・手術時間やデクスメデトミジンの総投与量による層別解析では有意な交互作用はなかった。
💡 考察
術中デクスメデトミジン使用は、がん手術後の長期生存率を改善する可能性が示されたが、再発抑制効果は確認されなかった。抗炎症作用や免疫調整効果が関与している可能性があるものの、これらの生物学的経路は臨床的な再発抑制には結びついていない。試験間の異質性(I²=47%)や観察研究の比率が高い点を踏まえ、今後は大規模RCTによる検証が必要である。
✅ まとめ
術中のデクスメデトミジン投与は、がん患者の全生存率を約23%改善したが、再発率には影響しなかった。免疫・炎症マーカーには有意な改善傾向がみられた。生存改善の機序は今後の研究課題であり、臨床応用には慎重な検討が求められる。