(背景と研究の目的)
手術前の絶食は、麻酔中の誤嚥、つまり胃の内容物が気道に入ってしまうのを防ぐために必要とされています。一般的には、固形物は6時間前まで、透明な液体も2時間前までに摂取を終えるように指導されます。しかし、実際の手術スケジュールは予定通りに進まないことが多く、患者さんが想定以上に長時間「何も飲めない」状態になることがよくあります。その結果、のどの渇きや不安が増し、さらには術後の吐き気のリスクが高まることが知られています。
この問題を解決するために導入されたのが、「Sip til Send」という新しいポリシーです。これは、手術室に移動する直前まで少量の水を飲むことを許可するというものです。研究チームは、このポリシーが患者の満足度を向上させるのか、また安全性に問題はないのかを検討しました。
(研究方法)
この研究には、イギリスのシェフィールド・ティーチング・ホスピタルの2つの病院で合計257名の患者が参加しました。
まず、「Sip til Send」導入前のデータを収集し、その後、ポリシーを段階的に導入しながら患者の満足度や絶飲食時間を比較しました。
患者満足度は、「手術前の水分管理に満足しているか?」という質問に対し、5段階評価(0=非常に不満、4=非常に満足)で測定しました。
また、実際に患者がどれくらいの時間何も飲めなかったか(絶飲食時間)も記録しました。
(結果)
導入前、患者の満足度の中央値は**「4」(IQR: 3–4)**で、すでに比較的高い数値を示していました。しかし、「Sip til Send」を導入した後、中央値は「4」(IQR: 4–4)に改善し、特に「不満」を感じる患者の割合が大幅に減少しました(p < 0.001)。
また、「Sip til Send」により手術前の水分摂取が増えた結果、絶飲食時間は平均5.3時間から1.6時間へと短縮されました。特に、4時間以上何も飲めなかった患者の割合は約52%から10%へと大幅に減少しました。さらに、研究期間中に誤嚥や逆流などの合併症は1件も報告されませんでした。
(安全性の評価と限界)
「水を飲んでも安全なの?」と疑問に思った方も多いかもしれません。実は、この研究では、胃の中に残った水分量を直接測定するために胃管を挿入するような評価は行われていません。
安全性の評価としては、患者の誤嚥や逆流が報告されなかったという点を根拠にしていますが、より厳密な検証が必要です。
また、研究の限界として、
が指摘されています。
(考察と結論)
この研究の結果から、「Sip til Send」ポリシーは患者満足度を向上させ、絶飲食時間を短縮する効果があることが示されました。特に、「オプトアウト方式」(特別な理由がない限り全員に適用)にすることで、スムーズな導入が可能だった点も重要です。
一方で、安全性の評価にはまだ課題が残っており、より詳細な研究が求められることもわかりました。特に、実際の胃内容量の測定や誤嚥リスクの長期的な評価が今後の課題となります。
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