Douville NJ, Bastarache L, He J, et al. Polygenic Score for the Prediction of Postoperative Nausea and Vomiting: A Retrospective Derivation and Validation Cohort Study. Anesthesiology. 2025; 142: 52–71.
🧩 研究の背景
術後の吐き気と嘔吐(PONV)は、依然として頻度の高い周術期合併症の一つであり、既知の臨床リスク因子(例:女性、非喫煙、オピオイド使用歴など)ではそのすべてを説明できないことが指摘されている。本研究は、PONVの発生における遺伝的要因の関与を明らかにし、ポリジェニックスコア(polygenicscore, PGS)による予測の有用性を検討したものである。
🧪 方法
64,000人超の手術患者データと遺伝情報を、ミシガン大学とヴァンダービルト大学のバイオバンクから取得し、GWAS(ゲノムワイド関連解析)を実施。その後、得られた遺伝的関連情報からPGSを構築し、独立した検証コホートにおいて、PONVの予測力を評価した。解析にはc-statisticとネット再分類指標(NRI)を使用した。
📊 主な結果
PGSはPONV発症と統計的には有意な関連を示し、従来のリスク因子に追加することでモデルの識別力はわずかに向上(c-statisticで+0.003、NRIで4〜5%の改善)した。ただし、PGSの影響力は小さく、女性であることやPONV既往のような臨床因子に比べて効果は一桁小さい。1SD高いPGSを持つ患者でも、PONVのリスク上昇はわずか2〜3%にとどまった。
🧠 解釈と意義
大規模コホートを用いた網羅的アプローチにより、PONVと関連する遺伝的変異群が示されたことは意義深い。しかしながら、臨床予測モデルにおいてPGSが果たす役割は限定的であり、現段階では臨床応用の価値は低いといえる。今後の課題として、非白人集団への外的妥当性、PONVの重症度や持続時間との関連、ならびにPGSのコストパフォーマンスの精査が挙げられる。
⚠️ 限界と批判的視点
・症例は主に白人のアメリカ人に限られ、他の人種への一般化は難しい
・PONVの診断はPACUでの記録ベースであり、主観的な症状や未記録の症例が除外された可能性がある
・PGS導入にかかるコストや実装面の課題には言及がない
・PONV予防薬の使用が変数に影響を与える可能性も検討課題
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