「奥村先生と交渉学」と題して3回にわたりお送りしてきました。最終回は特定非営利活動法人 日本交渉協会 名誉理事の奥村哲史氏の新刊『交渉戦略』(日本経済新聞出版「マネジメントテキスト」シリーズ)の背景と狙いについて。また、リサーチ・ベースド・エデュケーション(研究に基づく教育)の思想、教材・教授法の日本化、公共事業や社内調整まで広げた適用事例、そして日常生活・民主主義における交渉リテラシーの意味までを語ります。
◎奥村哲史氏のご経歴
・特定非営利活動法人 日本交渉協会 名誉理事
・早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(商学:早稲田大学)
・滋賀大学経済学部教授から名古屋市立大学大学院経済学研究科、東京理科大学を経て、東洋大学教授を2025年3月定年退職。
・大学では経営学、経営組織論を担当。米ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院フェロー(1994~2018)として交渉と紛争解決研究に従事。
・早稲田大学大学院政治学研究科(2003~2019)、神戸大学大学院経営管理研究科(2010~2019)の他、メルボルン大学経営大学院、フランスESSEC経営大学院、テンプル大学日本校企業教育部門、西セビリア大学大学院、レーゲンスブルク工科大学、ストラスブール大学などで交渉関連科目を担当。
・企業における実務研修多数。
<翻訳>
『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』(Lempereur & Colson, The FirstMove 白桃書房 2014)
『予測できた危機をなぜ防げなかったのか? 組織・リーダーが克服すべき3つの障壁』(Bazerman & Watkins, PredictableSurprises 東洋経済新報社 2011)
『影響力のマネジメント:リーダーのための実行の科学』(Pfeffer, Managing with Power 東洋経済新報社 2008)
『交渉力のプロフェッショナル:MBAで教える理論と実践』(Brett, Managing Globally ダイヤモンド社 2003)
『「話し合い」の技術:交渉と紛争解決のデザイン』(Ury, Brett, & Goldberg, Getting Disputes Resolved 白桃書房 2002)
『マネジャーのための交渉の認知心理学:戦略的思考の処方箋』(Bazerman & Neale 白桃書房 1997)
『マネジャーの仕事』(Mintzberg,The Nature of Managerial Work 白桃書房 1994)
【TODAY’S TOPICS】
◎ 『交渉戦略』出版の経緯
・国際学術誌への論文掲載を契機に、日経企業カンファレンスに招かれ、日本経済新聞出版の編集者の目に留まる。
・当初は新書企画→成就せず。その後、神戸大MBAの講義を編集者が見学し、書籍化が本格始動。
◎ リサーチ・ベースド・エデュケーション:理論と実践をどうつなぐか
・小手先のハウツーから距離を置き、実証研究を束ねた学術的所見をベースとして実務に適用・応用可能な知識体系を提示する方針。
・2002–03年、文部科学省の支援で北米に滞在し、それまでのMBA/エグゼクティブ向けのプログラムの受講にくわえ、教授法の観察。教材と教授法の研究を進める。
・日本での適用では「そのまま輸入」ではなく日本的要素の編集も織り込む。比較文化型の実証研究との相互交流にもなる。
◎ 公共事業にかかる用地交渉×交渉知:実践知と学術知の実学的交流
・公共事業(道路・河川・橋梁)にかかる立ち退き・補償交渉の現場で培われた知見の収集と編集。
・ベテランの経験知を聞き取り・再構成してアーカイブ化し、教育可能な形にする共同プロジェクトが始動。
◎ 営業・調達の枠にとらわれない。組織内調整への拡張
・企業の研修現場では、社内の微細な調整や部門間の合意形成にも交渉視点を適用。
・教材設計も取引型に加え、紛争解決、合意形成など社会や組織の現実課題を取り込む。受講者層を広げ、知の定着を図る。
◎ リスナーへのメッセージ:交渉は生活と民主主義の筋肉
・プライベートな場でも、家庭内の話し合いから住宅の購入にいたる状況まで、意識的に利害のギャップを解消することがストレス軽減にもつながる(心理面への言及あり)。
・昨今の国際関係や国内政治をみても、交渉力のある人材に任せなければ、国益も私たちの生活も破壊される。私たち市民は投票行動において、そういう人材を選ぶ機会を与えられている。
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お聞きいただきありがとうございました。
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