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慢性透析患者は全国で約34万人にのぼり、その平均年齢は70歳を超えて高齢化が進んでいます。この透析医療では、災害時の継続体制や腎代替療法の情報提供、シャントトラブルへの対応といった取組に、医療機関ごとのばらつきが課題となっていました。そこで令和8年度診療報酬改定では、血液透析患者がより安心・安全に医療を受けられる体制を確保するため、人工腎臓(J038)の評価を見直すことになりました。本記事では、この見直しの内容を改定案と現行の比較を交えて解説します。

今回の見直しは、基本点数の引き下げと新加算の創設という2本立てで行われます。第一に、人工腎臓の基本点数を区分にかかわらず一律20点引き下げます。第二に、引き下げ分を補う形で「腎代替療法診療体制充実加算」(20点)を新設します。この加算は、災害対策・腎代替療法の情報提供・シャントトラブルの医療機関間連携という3つの要件を満たした医療機関で算定でき、要件の一部には届出のための経過措置が設けられています。

見直しの背景:透析医療を取り巻く現状と課題

今回の見直しは、透析医療の現状に残る体制面の課題を背景としています。慢性透析患者は約34万人で、新規導入患者も年間約3.9万人にのぼります。患者の高齢化が進むなか、災害時にも透析を止めない体制や、患者一人ひとりに適した治療法を選べる支援の重要性が増しています。

この体制面の課題は、複数の調査結果にあらわれています。災害対策では、対応マニュアルを策定済みの医療機関が80.5%にのぼる一方、日本透析医会の災害時情報ネットワーク等への登録や自治体等との連携体制を確保している医療機関は76.1%にとどまります。腎代替療法の情報提供では、血液透析・腹膜透析・腎移植という3つの選択肢をすべての患者に提示している医療機関は51.2%にすぎません。シャントトラブルへの対応では、自院での治療や事前に連携した医療機関への紹介を行う施設が93.6%を占める一方、事前連携のないまま紹介する施設も5.9%残っています。

これらのばらつきを是正することが、今回の評価見直しのねらいです。すなわち、安心・安全で質の高い透析体制を整えた医療機関を評価する仕組みを通じて、医療機関全体の取組の底上げをめざします。

改定内容①:人工腎臓の基本点数を一律20点引き下げ

第一の見直しは、人工腎臓の基本点数の一律20点引き下げです。この引き下げは、慢性維持透析1〜3の各区分と「その他の場合」のすべてに適用されます。引き下げ後も、後述の新加算を算定すれば実質的な点数水準は維持される設計になっています。

引き下げの内容は、区分ごとに現行点数と改定案を並べると確認できます。最も算定の多い慢性維持透析1では、4時間未満が1,876点から1,856点へ、4時間以上5時間未満が2,036点から2,016点へ、5時間以上が2,171点から2,151点へと引き下げられます。慢性維持透析2では、4時間未満が1,836点から1,816点へ、4時間以上5時間未満が1,996点から1,976点へ、5時間以上が2,126点から2,106点へと引き下げられます。慢性維持透析3では、4時間未満が1,796点から1,776点へ、4時間以上5時間未満が1,951点から1,931点へ、5時間以上が2,081点から2,061点へと引き下げられます。「その他の場合」も1,580点から1,560点へと引き下げられます。

改定内容②:腎代替療法診療体制充実加算(20点)の新設

第二の見直しは、引き下げ分を補う「腎代替療法診療体制充実加算」(20点)の新設です。この加算は、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合し、地方厚生局長等に届け出た医療機関で算定できます。引き下げと同額の20点であるため、基準を満たした医療機関では従来どおりの点数水準を確保できます。

裏を返せば、この加算は体制整備のインセンティブとして機能します。つまり、基準を満たさない医療機関は実質的に20点の引き下げとなり、基準を満たす医療機関だけが従来水準を維持できる仕組みです。こうして、安心・安全な透析体制を整えた医療機関に診療報酬が手厚く配分されます。

加算の施設基準:満たすべき3つの要件

腎代替療法診療体制充実加算には、満たすべき3つの要件があります。第一に災害対策、第二に腎代替療法の情報提供、第三にシャントトラブルの医療機関間連携です。これらに加え、緩和ケアの提供体制を整えることが望ましいとされています。

第一の要件は、災害対策です。具体的には、ハザードマップで自院の災害発生時のリスクを把握したうえで災害対応マニュアルを作成していること、そして日本透析医会等による災害時の情報伝達訓練に年1回以上参加していることの両方を満たす必要があります。

第二の要件は、腎代替療法の情報提供です。情報提供では、関係学会の資料に基づき、患者ごとの適応に応じて腎代替療法を説明していることが前提となります。この説明は導入期に限らず、患者の病状や求めに応じて繰り返し行うこととされています。そのうえで、在宅自己腹膜灌流指導管理料(C102)を過去1年間で24回以上算定していること(腹膜透析の実績)、または腎移植の相談に応じ移植手続を行った患者が前年に2人以上いること(腎移植の実績)のいずれかを満たす必要があります。

第三の要件は、シャントトラブルの医療機関間連携です。透析シャントの閉塞等で経皮的シャント拡張術・血栓除去術などの治療を要する場合に、自院で治療する場合を除き、治療を行う他の医療機関とあらかじめ連携し、必要に応じて診療情報を提供する体制を整えていることが求められます。

なお、緩和ケアの体制整備は努力義務にとどまります。すなわち、患者の症状に応じた治療やケアを提供できる体制を整えることが望ましいとされ、その際は「腎不全患者のための緩和ケアガイダンス」を参考にすることとされています。

届出への対応:要件の一部に経過措置

加算の要件のうち一部には、届出のための経過措置が設けられています。この経過措置は、加算の届出を行った医療機関を対象に、特定の要件を一定期間満たしているものとみなすものです。これにより、医療機関は段階的に体制を整えられます。

経過措置の対象は、2つの要件です。第一に、災害時の情報伝達訓練への参加(災害対策のイ)は、令和9年5月31日までの間は基準に該当するものとみなされます。第二に、腹膜透析の実績と腎移植の実績(情報提供のイ・ウ)は、令和10年5月31日までの間は基準に該当するものとみなされます。

まとめ:体制整備を評価する2本立ての見直し

令和8年度改定における人工腎臓の評価見直しは、基本点数の引き下げと新加算の創設という2本立てで行われます。人工腎臓の基本点数は一律20点引き下げられ、その分を補う腎代替療法診療体制充実加算(20点)が新設されます。この加算は、災害対策・腎代替療法の情報提供・シャントトラブルの医療機関間連携という3つの要件を満たした医療機関で算定でき、要件の一部には令和9年・令和10年までの経過措置が設けられています。透析医療を提供する医療機関は、これらの要件と猶予期間を確認し、届出に向けた体制整備を計画的に進めることが求められます。



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