こんばんは。ささきるです。第3話は、合宿2日目の午前中に訪れた宮沢賢治記念館(花巻市)での様子をお届けします。あまりに絶好なロケーションに3人とも言葉を失い、やがて興がのって詩の朗読をしはじめます。どうぞお楽しみください。
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ZOOM H6を持ちながら宮沢賢治記念館を訪れるtelさん宮沢賢治記念館は、東北新幹線の「新花巻駅」を降りて車で5分程度のところにあります。東京から行く際には、「土澤のアートクラフトフェア」の季節に一緒に訪れるのがお薦めです。
宮沢賢治記念館はこんな場所奥にちらっと見えるのが記念館。緑に恵まれた小高い山の中腹にあります。ここで鳥のさえずりを聞きながら収録しました。
『春と修羅』(宮沢賢治)1924年に出版された詩集、というか心象スケッチ。1922年から1923年にわたる22か月間の記録であることが序に宣言されています。
これらは二十二箇月の過去とかんずる方角から紙と鉱質インクをつらね(すべてわたくしと明滅し みんなが同時に感ずるもの)ここまでたもちつゞけられたかげとひかりのひとくさりづつそのとほりの心象スケツチです
どこをとっても素晴らしいのですが、番組中に読み上げたのは以下の部分です。地質学的な時間の長さが、地理的にも空間的にもどこまでも延びている世界観が現れていて好きな部分です。
おそらくこれから二千年もたつたころはそれ相当のちがつた地質学が流用され相当した証拠もまた次次過去から現出しみんなは二千年ぐらゐ前には青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層きらびやかな氷窒素のあたりからすてきな化石を発掘したりあるいは白堊紀砂岩の層面に透明な人類の巨大な足跡を発見するかもしれませんすべてこれらの命題は心象や時間それ自身の性質として第四次延長のなかで主張されます
ちなみに次の写真は、私が当日持ち込んだ新潮文庫から詩集(天沢退二郎編)。繰り返し読んだことで、だいぶ年季が入っています。
農民芸術概論要綱「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」の一節で有名。研究によると、ウィリアム・モリスの影響もあるそうです。
おれたちはみな農民である ずゐぶん忙がしく仕事もつらいもっと明るく生き生きと生活をする道を見付けたいわれらの古い師父たちの中にはさういふ人も応々あった近代科学の実証と求道者たちの実験とわれらの直観の一致に於て論じたい世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化するこの方向は古い聖者の踏みまた教へた道ではないか新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことであるわれらは世界のまことの幸福を索ねよう 求道すでに道である
屈折率
番組中では「またアラツデイン 洋燈とり」のところがいいよね、という話でもりあがりました。
七つ森のこつちのひとつが水の中よりもつと明るくそしてたいへん巨きいのにわたくしはでこぼこ凍つたみちをふみこのでこぼこの雪をふみ向ふの縮れた亜鉛の雲へ陰気な郵便脚夫のやうに (またアラツデイン 洋燈とり)急がなければならないのか
永訣の朝
telさんが気に入った作品。「あめゆじとてちてけんじゃ」は岩手の方言で「雨雪を取って来てちょうだい」という意味です。
けふのうちにとほくへいつてしまふわたくしのいもうとよみぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ (*あめゆじゆとてちてけんじや)うすあかくいつそう陰惨な雲からみぞれはびちよびちよふつてくる (あめゆじゆとてちてけんじや)
原体剣舞連
私が大好きな作品。悪路王が出てきたり、アンドロメダが出てきたり。宮沢賢治の目を通すと、民俗芸能が太古の時代から宇宙にまで広がりを持ちます。
Ho! Ho! Ho! むかし達谷の悪路王 まつくらくらの二里の洞 わたるは夢と黒夜神 首は刻まれ漬けられアンドロメダもかゞりにゆすれ 青い仮面このこけおどし 太刀を浴びてはいつぷかぷ 夜風の底の蜘蛛をどり 胃袋はいてぎつたぎた dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
告別私の世代でいうと、土田世紀の漫画『編集王』で効果的に使われたことで有名。小さな世界で天狗になった若者の鼻をへし折りまくった名作、名句。
けれどもいまごろちゃうどおまへの年ごろでおまへの素質と力をもってゐるものは町と村との一万人のなかにならおそらく五人はあるだらうそれらのひとのどの人もまたどのひとも五年のあひだにそれを大抵無くすのだ生活のためにけづられたり自分でそれをなくすのだすべての才や力や材といふものはひとにとゞまるものでないひとさへひとにとゞまらぬ云はなかったが、おれは四月はもう学校に居ないのだ恐らく暗くけはしいみちをあるくだらうそのあとでおまへのいまのちからがにぶりきれいな音の正しい調子とその明るさを失ってふたたび回復できないならばおれはおまへをもう見ない
青森挽歌
このイメージ喚起力! 番組中、テンションがあがって大声を出してしまいました。
こんなやみよののはらのなかをゆくときは客車のまどはみんな水族館の窓になる (乾いたでんしんばしらの列が せはしく遷つてゐるらしい きしやは銀河系の玲瓏レンズ 巨きな水素のりんごのなかをかけてゐる)
小岩井農場青森挽歌と同じ電車もの。冒頭の一節は、はっぴいえんどの「抱きしめたい」の一節「飴いろの雲についたら 浮かぶ驛の沈むホームに とても素早く 飛び降りるので きみをもやしてしまうかもしれません」の元ネタ。宮本さんがはっぴいえんどが好きだそうなので、書きました。
わたくしはずゐぶんすばやく汽車からおりたそのために雲がぎらつとひかつたくらゐだ
ちなみに、その小岩井農場のジオラマがあります。どこを歩きながらどの詩を読んだのかが立体的に表示してあるという最高の展示物です。
春と修羅、風の又三郎、注文の多い料理店の初版復刻版宮本さんの私物。日本近代文学館から1985年に復刻された3冊セット。
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次回もお楽しみに。
制作ノート
企画: ささきる出演: ささきる, tel, 宮本編集・ディレクション: tel制作協力: 株式会社Next Commons2022年5月24日収録