波乱の人生の果て、51歳で出家。
常に「愛すること」の大切さを説いた規格外の作家がいます。
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)。
2021年11月9日、99歳で亡くなった寂聴の作品は、今もなお読み継がれ、彼女のストレートに響く言葉は、多くのひとを救っています。
今年6月、幻冬舎から出版された一冊の本が、話題になっているのをご存知でしょうか。
延江浩(のぶえ・ひろし)著・『J』。
85歳の作家で尼僧の「J」と、37歳のビジネスマンとの恋愛を描いた衝撃作です。
「J」のモデルが瀬戸内寂聴であることは、明白。
フィクションの体をとっていますが、まるでそこに寂聴がいるかのように息遣いまでも再現された小説は、延江浩の端正な筆致と膨大な取材量に裏打ちされて、私たちの心に、これまで味わったことのない感動を与えます。
この小説は、人間の業を肯定し、愛に生きた「J」を描くと共に、作家・瀬戸内寂聴の人生をリアルな湿度と痛切で辿っているのです。
寂聴は、大正11年生まれ。
大学在学中に結婚。娘を出産しますが、夫の教え子と恋に落ち、夫と幼い娘を捨て、家を出ます。
その後、小説家としてデビュー。
41歳のとき、自身の体験をもとに女性の愛と性を描いた『夏の終り』で、女流文学賞を受賞して、作家としての地位を不動のものにします。
ベストセラー作家として、これからというとき、彼女は突然、出家を発表。
しかし、その後も旺盛な創作欲は変わらず、生涯で書いた作品は400点を超えます。
寂聴を表するとき、多くのひとが口にするのは、笑顔です。
仏教の言葉「和顔施(わがんせ)」を、そのまま具現化したような笑い顔。
相手に笑顔を施すことがひとつの徳になる。
笑えば自分も元気になる。
ただ、その笑顔の下に、どれほどの苦しみや後悔が隠されていたか、うかがい知ることはできません。
ただ、彼女は晩年、言い続けました。
「人生の意味とは、愛すること。そして愛するとは、ゆるすこと」
己の欲や業に真っすぐ向き合ったレジェンド、瀬戸内寂聴が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?