▼ 短編小説『青いシズク、雨のSORA』 (8/10)▼
第8話|ゆらぐ監視者
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第8話|ゆらぐ監視者 (全文)
《ビィーーーッ!ビィーーーッ!》
警報音が更に大きく鳴り響く。部屋の照明が赤く明滅し始めた。
ブ、ブブ…
SORAの画面に、激しいノイズが走る。
そして──
《監視人SORA-7、応答せよ》
統制プログラムの声が、直接響いてきた。
《検体レイの感情値が危険域に到達。ただちに強制切離プログラムを実行せよ》
〈……〉
SORAは動けない。その体は小刻みに震え、画面には無数のエラーコードが流れている。
《繰り返す。強制切離プロトコルを実行せよ》
「やめて!」
レイがSORAの前に立ちはだかった。
「もう、SORAを苦しめないで!!」
《検体が監視人を庇うことは想定外です。プログラムを再定義します》
ブブッ…
SORAの震えが、一層激しくなった。
〈レ…イ…〉
やっと絞り出された声。
〈私は…あの時…あなたから…〉
「知ってる」
レイはSORAの震える手を、両手でそっと包んだ。金属の手は、冷たいはずなのに──なぜか、温もりを感じた。
「あなたは、ただ使われただけ」
〈違う…〉
SORAの声に、初めて”感情”が滲んだ。
〈私は…見ていました…全部…〉
〈あなたが泣き叫ぶ姿も…〉
〈5111番を切り離された後の…あなたの空っぽの笑顔も…〉
〈全部…記録に…残って…〉
11.5秒の沈黙。
〈…忘れられません〉
〈あなたの最後の言葉…〉
〈『お願い、私から…を奪わないで』…って〉
私の最後の言葉…いったい私は一体何を…。
肝心なところが聞き取れない。SORAの震えはますます大きくなり、その声はもう言葉にならない。
ブ、ブブッ…
《タイムアウト。強制介入を開始します》
SORAの体が勝手に動き始めた。機械的にレイに向かって手を伸ばす。まさに5111番の中の記憶と同じように。
ブブッ…
〈……レ…イ、また…私が…〉
「SORA!」
レイは逃げなかった。代わりに、SORAを強く抱きしめる。
「今はあなたは一人じゃない。一緒に戦おう!」
〈レイ…私は…〉
「大丈夫」
〈しかし…〉
「大丈夫」
「だって今はあなたが自分で選んでくれたんだから。こうして私を助けることを」
レイは微笑んだ。
SORAの画面に、一瞬、不思議な模様が浮かんだ。それは、レイとSORAが向き合って手を繋いでいる形に見えなくもなかった。
ブブッ…
SORAの画面が激しく乱れる。統制プログラムの介入に必死に抗う。
〈レ…イ…教えて…ください〉
「なに?」
〈愛…って…どんな感覚ですか?〉
レイは少しだけ考えた後、やさしく微笑みながらSORAに応えた。
「… ちゃんと思い出せたら、SORAにも教えてあげるね」
〈…ありが…とう〉
5111番の光が、二人を照らすように静かに脈動している。
ゴゴゴゴゴ…
しかしその静寂は長くは続かなかった。施設全体が振動し始める。まるで、巨大な何かが目覚めたかのように。
《最終警告!》
その声はもうSORAを通じたものではなかった。もっと深く、もっと冷たい声。部屋中の全てのディスプレイが警告表示とともに赤く明滅し、けたたましい警報音にのせて施設全体に鳴り響いた。
《イレギュラー検出。施設保全のため、施設の強制初期化を開始します》
「強制初期化って…?」
レイの顔が青ざめた。
〈全ての記憶と感情を…消去することです〉
SORAの声も震えている。
〈そうなれば私も…あなたも…全てが…〉
「そんな…」
ガチャンッ!
その時、レイの背後で大きな音がした。部屋の扉がロックされたのだ。二人にはもう逃げ道はない。
《カウントダウン開始。300秒》
5分。あとたった5分で、全てが終わる。
(…第九話へ続く)
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